IRIDeS Newsletter | 東北大学 災害科学国際研究所 IRIDeS

2016.6.22

災害で生き残った人々は死者へどのように思いを寄せ、どう災害を伝えてきたか?(川島秀一教授)(vol.24 その2)

 

供養を行う人々の気持ち

 

川島教授によると、日本において災害死は異常死とみなされ、したがって災害による死者は特別な供養の対象となってきました。

 

実際に供養を行う人々の本音は、災害による死者がかわいそうだからというだけではなく、「たたられては困る」という、いわば現世利益的ともいえるものですが、それが結果として死者を気にかけ、大事にすることにつながってきたといえます。

 

日本民俗学においては、食べ物を分かち合うということは、人間のコミュニティ形成に深くかかわる行為とされています。死者への供物を地域で分け合うことは、生者が死者(の魂)はまだそこにあるとみなし、生活の一部に組み込んで生きていることを意味します。

 

日本では古来、死者の魂は亡くなったところに残ると考えられてきました。

 

先駆的な津波研究者の山口弥一郎(1902-2000)は、繰り返し津波被害にあい、何度も高地移転をしながら、なぜ結局、人はまた海辺に集落を再建してしまうのかという問題について、経済的要素だけでは完全に理解できない心意現象があると思われるが、論文化できないでいると述べました。

 

川島教授は、山口弥一郎が解き残した問題に取り組み、津波で多くを失ってもなお、人が海辺に戻っていく理由は、経済上の理由とともに、海のそばに住み、死者の供養を続けるのが残った者の使命であるとの心性が、人々にあるからだと考えます。

 

 

 

似て非なる「記念碑」と「供養碑」、両者の統合?

 

また、津波「記念碑」と津波「供養碑」は、これまでしばしば混同されてきましたが、実際は違うものであるとも、川島教授は指摘します。

 

記念碑は、出来事を後世に伝え、教訓にする目的で作られます。記念碑は、過去から未来へ直線的に流れる時間を想定した上での、未来へ向けてのメッセージであり、行政主導で建てられることが多かったようです。

 

しかし、「供養碑」は、災害で亡くなった人の冥福を祈るのが目的です。年中行事や年忌のように、回帰的・円環的な時間を想定した上で、過去の人たちへ向けて建てられている違いがあります。

 

そして記念碑はしばしば、建てっぱなしになり、時間がたつと建てられた意味が忘れられがちになりますが、一方、供養碑(供養の習慣)は、定期的に儀式を行い、死者と災害について思いを馳せることで、たとえ意図していなくとも、結果として災害について後世に伝える効果が大きいと、川島教授は話します。

 

 

 

津波記念碑に供えられた栄養剤 津波記念碑(気仙沼市三ノ浜)に供えられた栄養剤 (川島教授撮影)

川島教授が、記念碑・供養碑の違いをはっきりと意識化したのは、東日本大震災における自らの被災経験を通してでした。

 

震災後、がれきの中を歩いていたところ、昭和三陸津波(昭和8年)の記念碑に、栄養剤が3本供えてあった光景に出会ったのです。

 

栄養剤は、おそらく東日本大震災の津波によって亡くなった人へ供えられていたものですが、記念碑、しかも昭和8年の津波のものが、実質、東日本大震災による死者の供養碑として扱われていたことに、川島教授は驚きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昭和三陸津波慰霊祭(岩手県普代村) 昭和三陸津波慰霊祭・岩手県普代村(川島教授撮影)。津波記念碑が慰霊碑として扱われている

それをきっかけに更に調べたところ、「記念碑」が「供養碑」として活用されている例が、岩手県普代村や洋野町八木にあることがわかりました。

 

これらの集落では、毎年3月3日(昭和三陸津波の発災日)かその日に近い日曜日に、記念碑の前で慰霊祭を続けており、それが、地域の人々が津波についてもう一度想起することにつながっていました。

 

供養のための儀礼が津波災害を伝えることになっている例は、熊本市や天草市の、寛政4(1792)年の津波の死者を供養する儀礼にも見られます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死者への思いは災害記憶継承の鍵

 

人は、何もしなければ物事を忘れていく生き物ですが、忘れずに憶えていくための手段(ここでは、祭・習慣行事、記念碑・慰霊碑)も発明してきました。

 

効果的な防災を実現するためには、災害という現象だけでなく、人間のあり方を、一見合理的でない、近代以前から続く心性まで考慮して、深いレベルで理解する必要があります。

 

川島教授は、災害で生き残った人々が、死者へどのように思いを寄せ、どう災害を伝えてきたかを明らかにすることが、災害記憶の継承の鍵になると話します。今後も、各地で続く災害死者の供養の風習について、防災という観点から光をあてていく考えです。

 

 


 

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