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2018.9.7

地方都市における帰宅困難者問題とその解決策を調査

人間・社会対応研究部門
左から 寅屋敷 哲也 助教 丸谷 浩明 教授

 2011 年の東日本大震災では、特に首都圏の“ 帰宅困難者”が社会の注目を集めました。首都圏では、交通網の麻痺により、大勢の人々が帰宅をあきらめ、一時滞在施設に泊まったり、徒歩で帰宅をした人も途中で苦労するなど大きな問題となりました。

 


 震災時、実は、首都圏だけでなく地方都市でも帰宅困難者問題が発生していました。仙台市では仙台駅周辺で約11,000人の帰宅困難者が生じたと推計されています**。また、この人々が近くの学校・体育館などの指定避難所へ流入したことで、避難所は過密状態になり、運営面でも混乱が発生しました。しかし、地方都市における帰宅困難者問題の全体像は、これまで十分に明らかにされていませんでした。地方都市では大都市と人数規模や人の流れ、地域特性等が違うことを考慮して、地域に即した対策を立てておく必要があります。

 


 この問題意識に基づき、IRIDeS の寅屋敷哲也助教・丸谷浩明教授は、仙台市を含む南東北、さらに関東・中部・関西地域の計12 の都市の自治体職員等に対して、地方都市に有効な帰宅困難者対策を抽出するために聞き取り調査を行いました。東日本大震災を経験した自治体においては、当時の具体的な状況とその後整備を進めた対策について、また、経験していない自治体については、現在進めている地域の特性を踏まえた対策等に関して質問しました。

 


 この調査の結果、震災を経験した地方都市のほとんどは、東日本大震災発生当時、帰宅困難者対策を立てていませんでしたが、震災後は、「災害で鉄道が止まってしまったら、帰宅困難者が駅に集中しないようにする」「それでも駅に集まってしまった場合は、地域住民の指定避難所以外の場所へ誘導する」ための施策を整備した都市が多いことが分かりました。

 

平成29 年仙台市周辺帰宅困難者対応訓練 (写真:寅屋敷哲也助教)

 さらに、自治体によっては、震災教訓から学び、有効な解決策を生み出していることがわかりました。例えば仙台市は、駅周辺の商業施設やホテルなどの事業所と、“ 一時滞在施設協定” を締結し、さらに建築関係の団体と一時滞在施設の安全確認の技術者派遣の協定も締結しています。もし地震が発生したら、これらの協定に基づき、市は協定先の事業所へ一時滞在施設の開設を要請し、建物の安全性を判定できる技術者を派遣します。そして安全確認後、事業所は帰宅困難者を一時滞在施設に受け入れます。この対応により、帰宅困難者の早期収容と地域住民の指定避難所への流入を避けることができ、また、事業所側が自らの建物安全確認を行う負担やリスクが軽減されます。さらに仙台市においては、2014 年より毎年、駅周辺の事業所が中心となった帰宅困難者対応訓練も行われています。

 

 丸谷教授・寅屋敷助教は、上記調査の詳細な報告書に加え、問題の概要と仙台市などの先進対策事例をコンパクトにまとめた「地方都市の『帰宅困難者問題』ガイド」*を公表しました。寅屋敷助教は、「調査を通じ、地域によって帰宅困難者問題への取り組みに温度差があること、また、対策の必要性を認識していても、具体的なノウハウがない自治体もあることがわかりました。ぜひ、この報告書やガイドを参考にしていただきたい」とコメントしています。

 

*http://www.maruya-laboratory.jp/other01。
現在、IRIDeS 棟 1 階展示スペースでもご覧になれます。

 

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【お問い合わせ】IRIDeS広報室 電話 022-752-2049、Eメール koho-office*irides.tohoku.ac.jp (*を@で置き換えてください)

 

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