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2018.11.2

福島県いわき市薄磯地区で 地震・津波避難訓練に参加しました

2018 年10 月21 日、福島県いわき市平薄磯地区(以下「薄磯地区」)で、IRIDeS の杉安和也助教(リーディング大学院)らが協力する地震・津波避難訓練が行われ、IRIDeS 広報担当も参加しました。以下、訓練体験記をお届けします。

薄磯地区

 海辺に面したコミュニティです。2011 年の東日本大震災の際は8.51m の津波が押し寄せ、87% の家屋が全壊、115 名が犠牲となりました1)。また福島第一原発事故により、漁業なども大きな影響を受けました。薄磯地区の人口は、2010 年時点で766 名2)でしたが、2018 年には156 名3)へと縮小しました。

 

 甚大な被害を受けた薄磯地区ですが、震災後、再建を進めてきました。現在、高台への住宅移転が完了し、防災緑地も整備されました。2018 年夏には震災後初めて海水浴場も再開したところです。

薄磯地区の海岸沿いに整備された防災緑地。松の苗が植えられたばかり

避難訓練について

ドローンを飛ばして観光客の避難の様子を確認

 杉安助教らは震災後、薄磯地区の復興まちづくり全般にかかわりながら、2014年以降、IRIDeS 内外の研究者や防災関係者とともに、地区の避難訓練に協力してきました。避難訓練は住民主導で毎年1 回実施され、研究者側は、訓練内容の監修や運営支援等を行っています。また、避難者の時空間上の動きを記録する「GPS ロガー」、避難の様子を上空から撮影するドローンなどの技術を取り入れ、訓練の科学的な検証も行っています。

 

 杉安助教ら防災専門家と住民は、密な話し合いを重ねながら、年々、内容に工夫と改良を加えてきました。たとえば2016 年福島県沖の地震での避難状況を教訓に、前回の訓練から車による避難も公式に組み入れています。多くの人が一斉に車で避難することで渋滞が起き、かえって津波から逃げられなくなる問題を避けるため、津波からは徒歩の避難が原則です。しかしやはり車を使わざるを得ない住民がいる現実もあり、薄磯地区では、避難に際し一部住民の車使用を認め、かつ、車が集中しないようルートを工夫して渋滞が発生しないようにしています。

 

 震災後5回目となる今回は、地区の復興工事が終了し、ハード面がほぼ整った後としては、初めての訓練です。杉安助教らは、今回、車椅子による移動実験と、海辺にいる観光客の避難という要素も訓練に取り入れることにし、直前まで入念に準備を進めました。筆者は観光客役で訓練に参加することになりました。

車椅子避難の実験も取り入れる

訓練当日の様子

 当日は雲一つない晴天となりました。朝8:30、訓練用の大津波警報が発令され、いよいよ訓練開始です。住民は班に分かれ、避難場所を目指しますが、自宅を離れる際は「避
難しました」プレートを自宅入口にかけてから出発します。各班役員は、住民の逃げ遅れがないかこのプレートを見ながら確認し、自らも避難します。避難場所として指定さ
れているのは、地区南部の住民は豊間中学校、その他の住民は高台にある薄磯集会所です。海岸にいる観光客役(筆者)も、防災緑地経由で薄磯集会所を目指して急いで移動
しました。集会所までかなりの勾配ですが、全速力で移動して、避難完了まで6 分でした。杉安助教の共同研究者でもある電気通信研究所・株式会社空むすびから成るドロー
ンチームは、観光客の逃げ遅れがないか、空中から確認します。

 

 住民は、避難場所に到着後、区長へ、各班の避難者数や避難経路の状況などを報告します。最初の住民は8:41am、最後は8:53am に到着しました。20 分余りで、乳児からお年寄りまで、全126 名の避難が完了しました。

 

 最後に、杉安助教は参加者へ向け以下のように呼びかけ訓練を終えました。「今回、車椅子を押して避難した場合も検証しましたが、どの場所からも、約10 分あれば避難できることがわかりました。薄磯地区には、約15 分で津波が到達する可能性がありますが、今回、地震発生から遅くとも5 分以内に自宅を出さえすれば、無事、避難できる計算になります。皆さん、ぜひ憶えておいてください」と述べました。

このプレートで各戸の避難状況をチェック

避難者の到着時間を記入する杉安助教

続々と避難場所へ集まる住民

訓練を終えて

 一緒に訓練に参加して、最も印象に残ったのが、住民の機敏な動きです。訓練用警報が鳴ってから約15 分で大多数が避難を終えていました。訓練終了後の住民による片付けも実に手際よく、予定時間より前に完了しました。

 


 また、住民は「実際に避難して、一部、通りにくい箇所があることがわかった」など、訓練の意義を改めて認める感想を寄せていました。震災後7 年以上がたち、被災地における避難訓練は、全般的に参加率が低下傾向にありますが、薄磯地区では今回も、昨年並みの人数で、約8 割の住民が参加していました。薄磯地区区長をはじめ関係者は、内容的にも今回は大成功だったと総括し、早速来年の訓練について検討を始めました。

 


 避難訓練が、住民の密な人間関係と、科学技術の双方を生かした点も特徴的でした。研究者側からは、毎回、データ検証結果の住民へのフィードバックも行っています。杉安助教は、「薄磯地区の避難訓練は先進的な内容を取り込んでいますが、これは研究者と住民との間に信頼関係を築けたことも重要な要素になっています。訓練の内容は完成形に近づいてきました。しかしまだ見直すべき点もあり、今後も改良を重ねていきたい」とコメントしました。ドローンの使用も実験段階ですが、いずれは実際の避難に活用できるようにするのが目標です。

 

1)いわき市「東日本大震災の証言と記録」、p35.  2)2010 年国勢調査より  3)いわき市「いわき市の人口:平成30 年4 月1 日現在」、p.9.

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【お問い合わせ】IRIDeS広報室 電話 022-752-2049、Eメール koho-office*irides.tohoku.ac.jp (*を@で置き換えてください)

 

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