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2018.11.16

「同じ活断層がわずか6年弱で繰り返し動いた」という 常識を覆す現象を発見し、その原因を追究

「活断層は滅多に動かない」という常識を覆す

 

災害理学研究部門  福島 洋 准教授

活断層とは、過去に繰り返しずれ動き、将来も活動すると考えられる断層のことです。活断層が急激にずれ動くことが、内陸型(いわゆる直下型)地震の原因となります。日本には約2000 本もの活断層が確認されており、活断層の総数が多いため、ほぼ数年に1回、全国のどこかで大きな内陸型地震が起きている状況です。しかし内陸はひずみの蓄積がきわめて遅いため、個々の活断層の活動間隔については、千年~数万年に1 回と考えられています1)。

 

 そのような中、IRIDeS の福島洋准教授らは、茨城県北部のある活断層が、2011 年3 月19 日、2016 年12 月28 日と2 回動いたことを突き止め、かつ、その原因が、2011 年東北地方太平洋沖地震2)であったことを示しました。この研究は、同一活断層がわずか5 年9 か月という極めて短い間隔で繰り返し動いたことを明らかにしたもので、「活断層は滅多に動かない」という常識を覆します。従来の地震発生の考え方も、根本から変える可能性があります。

 

 

同じ活断層が6年弱でふたたび動いたことを 発見し、その原因を推定

 

 これまで福島准教授は、「衛星測地学」の手法を研究に取り入れてきました。衛星から地表に電波を送り、電波が反射して戻ってきた情報を用いて、地表の変化を把握します。地震前・地震後の電波の往復時間の差を求めることにより、ある地震が地表の各地点をどの方向に・どれくらい動かしたかを割り出すことができます。

 

【図1】研究対象である2つの地震が発生した茨城県北部地域(赤四角)
橙色: 2011 年東北地方太平洋沖地震でずれ動いたプレート境界面の主な部分
黒点: 2011 年3 月11 日~ 12 月31 日に、深さ30km より浅いところで発生した地震の震央

 2011 年3 月19 日、茨城県北部でマグニチュード(M)6.1の内陸型地震が発生した後、福島准教授は、この地域を含むデータの解析を行っていました。そして、それから5年9か月後の2016 年12 月28 日、同じく茨城県北部で、今度はM6.3 の内陸型地震が発生しました。福島准教授はこの地震の解析にも携わることになりましたが、解析のきっかけは他の研究者からの依頼であり、最初の段階では特別の興味を持っていたわけではありませんでした。日本ではM3 以上の地震が年間平均で5000 近くも発生しており、同じ地域で起きる地震はたくさんあります3)。特に茨城県北部地域は、2011年の巨大地震のあと、地震活動が急に活発化し、M6 以上の地震もいくつか起こっていました。

 

 しかし福島准教授は、2016 年地震の解析を終えたころ、IRIDeS の遠田晋次教授より「今回の地震で、2011 年3 月19 日の地震の時と同じ箇所で地表に変状が見られたらしい。前回と同一の活断層が動いた可能性を考える研究者もいる」と聞きました。ひょっとして、本当に同じ活断層が、わずか6 年弱という短い期間で動いていたのでしょうか。しかし、活断層は滅多に動かないという定説があります。地割れや地滑りなどの結果、同じ箇所が動いたように見えることもあります。そこで、たまたま2011 年・2016 年の地震解析に両方とも携わっていた福島准教授は、興味を持って詳しく検証してみることにしました【図1】。

 

 しかし、2 つの地震の解析結果をただ並べただけでは、同じ活断層が動いたのかどうかわかりません。それを調べるには、地表の同じ領域を切り出した上で、ほかの地震によるこの領域への影響など、純粋な比較の妨げになる情報を取り去ってから考える必要があります。福島准教授は、それら補正作業を行った上で、両地震の地殻変動マップを比べてみました。その結果、2つの画像から確認できる地表のずれの場所は見事に重なり、全く同じ箇所で地震が起きていたことが示されました【図2】。さらに、両者の地殻変動マップを詳細に解析したところ、地下の部分まで同じ箇所で同じ向きのずれを引き起こしていたことも確認されました【図3】。同一の活断層が動いていた証です。

 

 これら解析結果に加えて、研究グループの他のメンバーは実際に地震が起きた現地に赴き、衛星情報からはわからない、断層の細かいずれ方や割れ目などを、目視や測量で確認しました。その結果、2011 年と2016 年の地震で、震源付近にかかる同じ橋の欄干の同じ箇所がずれていたことなどがわかりました。こうして空と陸からダブルチェックを行った結果、やはり全く同じ活断層が動いたと考えて間違いない、と結論しました。

 

 これで、ごく短期間に同一の活断層が動くという、極めて珍しい現象は確認できました。次に福島准教授は、もう一歩進んで、この現象の原因を明らかにしたいと考えました。この科学界の常識に反する現象は、なぜ起こったのでしょうか。その手がかりを得るために、2011 年から2016 年までの地面の動きを、国土地理院の電子基準点4)のデータを用いて解析してみたところ、2011 年の地震の後、この活断層付近で、過去の内陸大地震では見られないレベルの大きな地殻変動が急速に起こっていたことが確認されました【図4】。この期間、2011 年巨大地震の影響を受けた大地の動きがゆっくりと続いており、この動きにより、茨城県北部は東西方向に引っ張られ続けていました。活断層にたまっていたひずみは、2011 年3 月19 日の地震を発生させて、一旦解消されましたが、巨大地震後の上記の大地の動きにより、再度ためられ、2016 年12 月28 日に2 回目の地震を引き起こした、という推測が導き出されました。この結果は、2018 年、論文として発表されました5)。

 

【図2】2011 年3 月19 日、2016 年12 月28 日の地震による地殻変動マップ
(衛星レーダ画像解析結果より作成)。黒線が地表のずれ(活断層)。

【図3】 2011 年3 月19 日と2016 年12 月28 日の地震について推定された断
層ズレ分布

 

 

今後の可能性

 

【図4】 2011 年3 月20 日(1 回目の地震の翌日)~ 2011年12 月27 日(2 回目の地震の前日)まで、地面は左図の各青矢印で示すように動いていた。この変化をひずみに変換して示したのが右図。ひずみが大きいほど濃い青で示される。右図内の赤線は、今回の研究対象である活断層で、この期間に周辺に大きなひずみが蓄積されていたことがわかる。

 今回の研究で、活断層の極めて珍しいふるまいが世界で初めて科学的に示されたことになります。しかし、内陸活断層の地震発生メカニズムにはまだ謎が多いと、福島准教授は述べます。地球の動きは極めて複雑で、活断層の動きを再現・検証できるようなリアルな実験はできません。過去の活断層の活動については、地面を掘り、地層のずれの量と、各地層が形成された年代を特定できれば、おおまかな活動間隔が計算できます。活断層の動きの活発さの研究は、このような地質的調査をもとに行われてきました。これまで研究者は、このような地質学的な研究成果などから、活断層に一定の力でひずみがたまり続けた結果、活断層が定期的に動く、というモデルで考えてきました。「しかし今回の研究で、外部から別の大きな力がかかれば、そのモデルは適用できないということが明らかになりました。」

 

 これまでに地球上のほかの場所でも、今回確認されたような、ごく短期間で同じ活断層が動くことはあったのでしょうか。「その可能性はあると考えていますが、地層の調査からはわかりません。たとえば、“1 回の地震で地層が2m ずれた場合” と、“ 今回のような短い間隔で2 回地震が続けておこり、各1m ずつ計2m ずれた場合” も、地層のずれの形態は、全く同じになるからです。」地層に、活断層が複数回動いた痕跡として残るのは、新たな地層が形成されるほど長い年月を挟んで活断層が動く場合です。

 

 しかし1990 年代以降、衛星からデータが得られるようになり、しかも近年はそのデータの質・量がどんどん向上しています。この技術の進歩を背景に、衛星測地学の分野でも、活断層のメカニズム解明の研究が多くなされるようになりました。「大地震は海外でも起きており、衛星データは世界中で取られています。今後、海外の巨大地震震源域の周囲についても、今回の茨城県北部と同様の現象が起こっていなかったかを検証してみたい」と福島准教授。同様の現象がみつかれば、新たな地震発生モデル構築につながるかもしれません。

 

 今回、高度なデータと複数研究手法の組み合わせにより、複雑な地球の動きがまた一つ明らかになりました。しかし、2 つの地震を関連づけることができた経緯や、「なぜこの現象は起きたのか」といった問いを立てる部分に関しては、偶然や、研究者の過去の研究蓄積・直感など人間的要素に大きく依拠することも、今回の発見に至るプロセスは示しています。

 

 

1) 参考:国土地理院 http://www.gsi.go.jp/bousaichiri/explanation.html
2) 2011 年3 月11 日の東日本大震災を引き起こした地震は、「2011 年東北地方太平洋沖地震」と名付けられています。
3) 気象庁HP、2001 年~ 2010 年における震源データをもとに算出。
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq7.html
4) 国土地理院で運用している、GNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)連続観測システム。GNSS は、カーナビでも使われる技術だが、より高機能なアンテナを使って精密な解析がされている。
5) Fukushima Y, Toda S, Miura S, Ishimura D, Fukuda J, Demachi T, Tachibana T,“Extremely early recurrence of intraplate fault rupture following the Tohokuokiearthquake,” Nature Geoscience , doi: 10.1038/s41561-018-0201-x.

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【お問い合わせ】IRIDeS広報室 電話 022-752-2049、Eメール koho-office*irides.tohoku.ac.jp (*を@で置き換えてください)

 

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