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2018.12.21

高層ビルの「ゆっくり揺れ」を抑える装置の開発に取り組む

災害リスク研究部門 五十子 幸樹 教授

 地震が起きると、小刻みな揺れや、ゆっくりした揺れなど、さまざまな揺れ(地震動)が発生します。揺れが一往復するのにかかる時間を「周期」と呼びますが、周期の短い激しい揺れのことを「短周期地震動」、周期の長いゆっくりした大きな揺れは「長周期地震動」と呼びます。高層ビルは、長周期の地震動に共振しやすく、特に高層階は大きく揺れる傾向があります*。

 

 日本では、特に1995 年の阪神・淡路大震災以降、大きな地震によるダメージを防ぐため、地震の揺れを軽減する装置を取りつけた免震建物が増えました(IRIDeS 棟にも免震装置がついています)。免震構造には、地震時の揺れを減衰させるためにダンパーが取り付けられています。高層ビルでも近年ではダンパーを取り付ける設計が増えています。しかし現在用いられているダンパーは、激しい短周期の揺れによる建物被害を減らすことは得意ですが、高層ビルなどの長周期の揺れを防ぐことは苦手です。まれにしか発生しない長周期地震動による揺れ幅を減らすためにダンパーの数を増やしてしまうと、逆に発生頻度の高い短周期地震動の揺れを増幅してしまう問題を生じる恐れがあるからです。

 そんな中、五十子幸樹教授ら研究チームは、建物を長周期地震動から守る新しい「同調粘性マスダンパー」の開発に取り組んできました。この新型ダンパーを用いれば、ゆっくりとした揺れに同調して振動を吸収することが可能となります。このダンパーに用いられる「ダイナミック・マス」のアイディアは1970 年代に日本で提案され、2000 年代に入って海外でレーシングカーのサスペンションへの応用がなされましたが、建築物のような大きな構造物の揺れを抑えることに用いることができる大型のダンパー開発に漕ぎつけたのは、五十子教授グループが世界で初めてです。2009 年には実大プロトタイプダンパーの製作と実験に成功し、2013 年には、仙台市内の建物に実際に装着、その後もさらなる長周期地震動対策に有効な免制振ダンパーの開発に取り組んでいます。

 

 五十子教授は、学内にある実験装置(地震による地盤の動きを再現できる振動台)に、開発中のダンパーを設置し、どのくらい地震の揺れを抑えられるか実験しながら研究を進めています。「マグニチュードの大きい地震は、長周期地震動を発生させやすくするうえ、日本の多くの都市は、地盤が柔らかく長周期の揺れを増幅しやすい堆積層に乗っています。さらに、その都市には長周期地震動に共振しやすい高層ビルや免震建物が林立しているわけです。これらの日本の特殊条件から、長周期地震動に対応できるダンパー開発の意義は大きいと考えられます」と五十子教授。将来的に、短周期地震動にも長周期地震動にも両方対応できるダンパーの開発が可能になると予測します。

 

 五十子教授によれば、日本は免制振ダンパー先進国で、すぐれた製品が開発され、実際に社会に受け入れられ、活用も進んでいます。しかし、世界基準では日本製ダンパーが精密すぎて高額であると受け止められがちで、逆に売れにくくなっているという課題もあるそうです。また一方で、「免制振装置がすべての地震に対応できるという過剰な期待は誤りです」と五十子教授は述べます。通常のダンパーは水平方向の揺れに対してのみ効果があるもので、上下の揺れを軽減するものではありません。さらには、直下型地震で地盤自体がずれてしまうようなケースまで、ダンパーで防ごうとすることには無理があり、基本的には、活断層上やその近くに建物を建てないようにするなどして対応するしかないとのことです。

 

* 参考:気象庁ホームページ
https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/choshuki/choshuki_eq1.html

東北大キャンパス内にある実験装置・振動台(中央の緑色の台)の傍らに立つ五十子教授。 アイディアを得ると早速試作し、振動台を用いて実験・改良を繰り返しながら、実用化へつなげていく。

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【お問い合わせ】IRIDeS広報室 電話 022-752-2049、Eメール koho-office*irides.tohoku.ac.jp (*を@で置き換えてください)

 

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