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2019.11.29

“防災まちあるき”に参加しました

 2019年11月10日、片平地区まちづくり会が主催し、IRIDeSの佐藤健教授らが協力するイベント「まちに隠された忍者の認定書を手に入れろ!~第四回宝探しゲーム 政宗公からの密命~」が開催されました。これは、子ども・大人、日本人・外国人が仙台市片平地区を一緒に歩いて地域の防災を楽しく学ぶ活動で、「仙台防災未来フォーラム」の一環として実施されたものです。以下、IRIDeS広報担当が参加した体験記です。

情報管理・社会連携部門 佐藤 健 教授

情報管理・社会連携部門
佐藤 健 教授

Start!

防災忍者となることを目指し、出陣式で士気を高めて出発

 朝9時半、参加者70名(関係者含む)は仙台国際センター前広場に集合。本日の設定は「約四百年前、仙台を災害から守る忍者組織“三日月団”が伊達政宗によって作られた。これから参加者は班に分かれ、地図とヒントが書かれた紙を頼りに、片平の各所に隠された宝箱を探していく。宝箱に記された暗号をすべて集めて政宗公の密命を理解し、新たな忍者と認定されることを目指す」。忍者のお頭(今野均 片平地区連合町内会会長)を囲み、参加者は「えい、えい、おー!」と出陣式を行います。佐藤教授も「安全に気を付けて、片平の魅力を満喫してください」と激励しました。

9_3_今野会長

今野会長

佐藤健先生_地図写真

 筆者は、片平に住む「花壇自動車大学校」の留学生7名と同じ班になりました。出身国はベトナム、フィリピン、スリランカなどで、自動車整備を学んでいるそうです。留学生は地域住民と生活時間・空間が違い、普段接点を持ちにくいため、今回は自動車大学校が協力し、地域参加を兼ねて来たとのことです。
 
 ガイド役の堀野正浩さん(仙台観光国際協会)、長門一彦さん(霊屋下町内会会長)と共に、班の一同はヒントから判明した最初の目的地「老人いこいの家」へ向けて出発しました。

道中にもポイントが

 この日仙台は快晴、空気は冷涼ですが、歩くうちに温まってきます。出発から約10分、広瀬川沿いを進んでいたところ、ガイドのお二人が、堤防と水門の手前で班を止め、解説を開始しました。「ここは仙台に数多くある堤防の一つです」「普段、河原に降りられるよう水門は開けてありますが、増水時は閉めます。先日の台風19号の時も閉めました」「昭和25年8月の台風で広瀬川が氾濫し、大きな浸水被害が出ました。皆さんが立っているこの道路はそのときの水位と同じ高さです。この堤防は、その後に作られました」。筆者が全く知らなかったことでした。

水門について説明する長門さん

水門について説明する長門さん

9_5_目的地は地区避難施設

目的地は地区避難施設

最初の目的地にたどりつくと、そこは地区避難施設

 さらに10分程度歩くと、最初の目的地・老人いこいの家に到着。ここは「地区避難施設(通称:がんばる避難施設)」で、町内会が開設から運営までを行う仙台市独自の場所でした。災害時「指定避難所」に避難者が集中することを緩和できます。
 
 ここで次のヒント「過去と現在と未来の橋の地。手がかりは過去にある」を考えると、更なる目的地が「評定河原橋」(ひょうじょうがわらばし)であることがわかりました。現地点から徒歩約10分の場所にあり、蛇行する広瀬川にかかる橋の一つです。

仙台の地理・歴史も学ぶ

 橋のたもとでガイドに示された方角を眺めると、ヒントのとおり、昔の橋脚跡が残っていました。ここで、評定河原橋が江戸時代から昭和時代に至るまで何度も大水で流されたことを学び、増水時の川の威力を実感しました。「今、皆さんが立っている河原のこの道も、大雨時には危険ですから使わないで」と注意があります。ガイドのお二人は片平育ちで、地域の歴史・地理を熟知し、地域のことを質問すると何でも詳しく教えてくださいます。その後も道中、「過去の災害により広瀬川の岸壁のあの辺が崩れました」「ここは昔、防空壕がありました」など解説が続きました。
 
 そして、さらなる目的地である片平丁小学校(指定避難所)、良覚院丁公園(地区避難施設)、仙台市博物館を順に訪れ、ヒントを解き、解説を聞きながら進んでいきました。

9_6_評定河原橋

評定河原橋

9_INDiary_昔の橋の跡

昔の橋の跡

宝箱の中には暗号が

最後に参加者は無事に忍者に認定。そしてまちあるきの楽しさに目覚める

 時刻は昼過ぎになりました。最後に再びスタート地点に戻り、各地の宝箱から集めた全暗号を並べてみると「お頭に大雨の時に避難する場所を伝えろ」という言葉が浮かび上がりました。これぞ政宗公の密命で、今日歩いて確認した各避難所に関することでした。結果をお頭に伝え、皆、晴れて防災忍者に認定されました。
 
 参加した皆さんに感想を聞きました。フィリピン出身のゴンザレス・ヤンシーさんは「謎ときが楽しかった」、ベトナム出身のグウェン・ティエン・タムさんは「近所なのに今まで知らなかった。まちの昔と今の違いが面白かった」とのことでした。
 
 筆者も、解説に助けられ、自ら歩いて確認したことで、この日から仙台が全く違って見えるようになりました。しかもその後、個人的に仙台の古地図を入手して昔の痕跡をたどるなど、まちあるき一般の魅力に目覚める余波までありました。

9_9_お疲れ様でした

約半日、お疲れ様でした!

Review

佐藤健教授のお話:イベントの特長・背景・今後について

 このイベントのテーマは防災を学ぶことですが、謎解き等の仕掛けにより、子どもでも楽しく参加できます。2016年、内閣府の地区防災計画モデル事業として実施されたのが始まりで、その後も片平地区の自主的な活動として続いてきました。佐藤教授は、初回からこの活動の企画運営に防災教育の面から協力してきました。
 
 佐藤教授は「防災だけができる地域コミュニティというのはありえません。まちづくり活動の中の一つに防災を位置付けるべきです。また、大人だけで取り組んでいてはいつか行き詰まります。この活動では、初回に参加した小学生が今回高校生になり、教わる側から教える側となってガイドをつとめました。後進が育っています。本イベントは、片平地区のまちづくり活動の一環であり、次世代の地域人材育成も果たしているのが特長です」と述べます。
 
 また、初回から外国人も参加してきました。これは、東日本大震災の際、指定避難所である片平丁小学校に外国人が多数避難して運営が混乱したことを受け、片平地区まちづくり会が、平常時から外国人と積極的に交流し、顔の見える関係を構築するとともに、外国人に防災の知識を身に付けてもらうよう尽力してきたことが背景にあります。その取り組みに、佐藤教授やIRIDeS教員が協力してきました。ほかにも佐藤教授は、ユニバーシティ・ハウス片平を、集合住宅タイプの「がんばる避難施設」とすることなど、片平地区まちづくり会と東北大学との防災上の連携にも尽力してきました。
 
 「片平地区の防災まちあるきは、世代や国籍の違う人たちをつなぎ、地域の自然・歴史・防災を包括的に楽しく学べ、他所へのロールモデルになります」と佐藤教授。現在の社会的な課題は、自主防災組織の活動の活性化です。行政(公助)に大きく依存している場合が未だ少なくありません。片平地区まちづくり会のように、主体的かつ持続可能な防災活動が展開できる地域コミュニティが増えるようにつとめていきたいと思います」と佐藤教授は話しています*。
 
 
*この防災まちあるきに関する論文としては以下を参照:
Sato, T. et al. (2018) “Sustainable community development for disaster resilience and human resources development for disaster risk reduction-Katahira-style disaster resilient community development-,” Journal of Disaster Research 13-7, pp.1288-1297.

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【お問い合わせ】IRIDeS広報室 電話 022-752-2049、Eメール koho-office*irides.tohoku.ac.jp (*を@で置き換えてください)

 

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