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2020.1.10

災害統計グローバルセンター:
仙台防災枠組のグローバルターゲットを達成する「強力なエンジン」

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パイロット国・UNDP・富士通等企業関係者と災害統計について会合(2019年11月、IRIDeS棟にて)

はじめに

 2015年3月、仙台にて第3回国連防災世界会議が開催され、世界の防災指針「仙台防災枠組2015-2030」が採択されました。この仙台防災枠組には、中心的な目標として「2030年までに、世界の災害死者数を大幅に減少する」「災害による直接的経済損失を減少する」等、7つの「グローバルターゲット」が設定されました。
 
 この国連会議を受け、2015年4月、IRIDeS内に「災害統計グローバルセンター」が設立されました。このセンターは、東北大学・国連開発計画(UNDP)・富士通株式会社(富士通)の3者が牽引するもので、上記の仙台防災枠組の中心目標を達成するために必要不可欠となる存在です。災害統計グローバルセンターは具体的に何を目指し、どのような特徴を持ち、設置以来どのような活動を行ってきたのでしょうか。

目指すもの

 このセンターは、「各国政府から災害統計を収集・保存し、連携機関とも共同して分析を加え、その結果を各国政府に還元し、各国の防災政策立案に役立てること」を目指しています。この「災害統計」とは、「災害によって引き起こされた人的・経済的被害統計」のことです。このような統計は日本では当たり前のように存在しますが、実は海外では、先進国を含む多くの国で、これまで十分に整備されてきませんでした。世界では長年にわたり、災害が起こった後の対応が中心でした。平時から災害に備えておく「防災」の考え方自体、比較的新しいものです。平時から災害データを整備し、防災政策に生かそうという気運は、1994年から3度にわたって日本で開催されてきた国連防災世界会議等を経て、やっと世界で主流になりつつある状況です。
 
 そもそも、なぜ災害統計が必要なのでしょうか。それは、ただ「防災を進めよう」というだけでは防災が進まないためです。たとえば、A国に災害統計がなければ、災害被害の正確な実情を把握することは困難です。さらに、このA国で防災政策を立案し、防災に投資し、その効果を客観的に調べるためには、例えば「投資前・後の災害死者数や経済損失額を比較し、投資後はこれだけ減る」と示さなくてはなりませんが、それも災害統計がなければ不可能です。防災は現状把握・政策立案・実施・検証をセットで進めていくものですが、そのすべてに災害統計が必要となるのです。

特長

 実は、災害統計グローバルセンターの設立以前も、世界の災害統計を整備しようという試みはありました。しかし、それらのデータは、各国政府の公式なものでなかったり、質・量ともに不十分、あるいはシステムが不安定であるために、各国の防災政策立案のためには効果的に使用できませんでした。災害統計グローバルセンターは、各国政府が管理するデータを網羅的・体系的に集めることを目的としており、この点が画期的といえます。
 
 このセンターは、東北大学IRIDeS、UNDP、富士通の3者がそれぞれの得意分野を生かして協働することで、各国政府のデータを集め、防災に生かす仕組みを作ります。まず、多分野の防災研究者が所属する東北大学IRIDeSは、データ集めから活用までの全体の仕組みを考案し、かつ、収集データの分析・研究を担当します。UNDPは、世界各国のガバナンス(統治)を支援することが使命であり、各国と太いパイプを持つため、各国の公式な統計データシステムの整備や収集を促す主力となります。さらにUNDPは、発展途上国にオフィスを構えており、各国で支援・トレーニング等のプロジェクトを行い、災害統計の整備にあたる人材の育成ができます。さらに富士通は、収集した災害統計を格納する「グローバルデータベース」を構築し、情報通信技術(ICT)における卓越した技術力で貢献します。
 
 この災害統計グローバルセンターに各国のデータがインプットされることで、アウトプットとして防災政策立案のための知見が得られます。そして、世界の災害死者数・経済損失を減らす等、仙台防災枠組の要であるグローバルターゲット達成への道筋をつけることに貢献します。
 
 ただし、現状ではまだデータベースに災害統計が網羅的に整備されておらず、すぐには利用できないことに留意が必要です。センターの発足により、公式な災害統計を世界的に整備していくための組織的基盤は整いました。晴れて多くの国の災害統計を整備し終わった暁には、災害統計グローバルセンターは文字通り地球規模で貢献力を発揮すると期待されます。しかしまずは、パイロット国を対象としてデータ収集システムの原型を作りつつ、データを格納する“箱”を整備している段階です。

GCDSスキーム図日本語

災害統計グローバルセンターの仕組み

設立以降の進捗状況

 センターは、まずは統計整備の関心が高い国々からの協力を得て活動を開始しました。現在までに7か国(インドネシア、カンボジア、スリランカ、ネパール、フィリピン、ミャンマー、モルディブ)がパイロット国となることに合意し、毎年これらの国々の防災主管官庁担当者と共に災害統計シンポジウムを開催し、災害統計確立・整備の意義を確認する場を設けてきました。各国で政府担当者は数年ごとに異動があるため、このような場は今後も定期的に必要です。さらに国際協力機構JICAと連携し、パイロット国以外でも災害統計収集の啓発・教育活動を防災の研修に取り入れてきました。
 
 同時に、センターの心臓部となるグローバルデータベースの構築も進め、パイロット国から収集すべきデータの内容および収集方法について合意を取り付けました。センター設立以前に存在した災害統計を、仙台防災枠組のターゲット指標に沿った項目に入れ直し、センター独自に収集するデータと合わせて再活用する作業も進めています。これらにより、各国が進捗を国連に報告できる形が整いつつあります。

今後について

 災害統計グローバルセンターは、仙台防災枠組の中心目標を達成するための「強力なエンジン」のような存在です。センター長の小野裕一教授は「センターは、“作物が貯蔵され、利用できる状態を作る”ために、まず、“土地を開墾して畝を作り、種をまく”ことから始めました。この“地ならし”は3割ほど完了したと実感しています」と述べます。2020年は、引き続き各国での啓発活動、政策担当者とのシンポジウム、データベースの構築・増強を行いつつ、いよいよ収集データを活用した分析を開始します。具体的には、インドネシアに関するデータを用いて経済分析や防災投資額の算定等を行う予定です。
 
 災害統計グローバルセンターと世界防災フォーラムの目指すものは、究極では仙台防災枠組の目標を達成する点で同一ですが、センターはトップダウンあるいは「公助」、フォーラムはボトムアップあるいは「自助」「共助」の性格が強いという違いがあります。小野教授は「すでに、災害統計グローバルセンターの進捗状況を、世界防災フォーラムにおいて発表する等、両者は連携してきました。今後、さらなる協働で相乗効果を狙いつつ、“世界の災害犠牲者・経済的損失を減らす”という大きな目標に向かっていきたい」と話しています。

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【お問い合わせ】IRIDeS広報室 電話 022-752-2049、Eメール koho-office*irides.tohoku.ac.jp (*を@で置き換えてください)

 

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