IRIDeS NEWs | 東北大学 災害科学国際研究所 IRIDeS

2022.2.4

IRIDeSの産学連携  その2

▷災害時の物流に関する新たな仕組みの検討

 共同研究の具体例として、株式会社 丸和運輸機関と災害時の物資運送・仕分けのシステムを一緒に考えています。災害発生後、全国的な運輸会社や地域の代表的な運輸会社の大型トラックは、都道府県のトラック協会などのアレンジで、国のプッシュ型被災地支援などの広域的な支援物資物流のために稼働することが多いのですが、中堅・中小企業のトラックには実際に声がかからないのが実態のようなので、その状況を改善できないかと検討を始めています。また、私の研究室では、物流企業 と地方公共団体の協力のあり方に関しても、東日本大震災の際の関連企業の経験調査などを通じて研究しています。このように、共同研究では産学双方の立場で協力し、災害発生時に具体的に起こりうるシチュエーションを一つ一つ吟味し、何がネックか、どんな資源が使用できるかなどを議論しながら、解決策 を探しています。

 また、共同研究先が地方自治体に支援物資の物流拠点を提案するご支援もしています。市の物流拠点が実際に物資の搬入・搬出をしやすい場所となるよう、道路アクセス、フォークリフトやパレットを使った機動力のある物資保管・仕分けなどを検討する重要性を指摘している状況です。一般に、行政の担当者は人事異動もあり、過去に支援物資の受け入れを 経験した自治体でさえ、担当者が詳しい知識を持っているとは限りません。大災害は頻繁には起きませんので、産官学の関係者で、災害発生時の対応を検討して意見交換を続けていくことは、過去の経験を継承し、災害にリアルに備えることにもつながっていきます。

 このような産学連携活動においては、企業側の課題に対し、 研究者として、過去の防災の課題・解決事例や政府・自治体の 最新の対応方法・計画に基づいて、アイデアを出します。企業はそのアイデアが実現可能かを具体的に調べ、有効だとわかればすぐに実装していきます。さらに、それが有効であり、実装できれば、政府や地方自治体に評価される可能性もありま す。強調したいのは、このような過程で研究者の側も企業から 学ぶことがとても多いことです。実践的な防災においては、現場の情報から解決策が得られることも多いと考えています。したがって、これらの共同研究の作業は産学でお互いの知見をトレードしているというだけでなく、研究室に集まり、スピード感を持って一緒に新しいアイデアを練り上げていく作業であるという方が、実態に即していると思います。

 

▷産官学連携の防災拠点の構築に協力

仙台長町未来共創センター

 さらに別の例として、企業が、仙台市に「災害発生時の対応拠点」兼「平時の防災拠点」となる建物を構築するプロジェクトにも協力しています。物流施設の設計やコンサルティングを手掛ける東京に本社をもつ株式会社 フクダ・アンド・パートナーズが、「首都直下地震等で被災した場合に備え、仙台でバックアッ プ拠点になる防災力の高いビルを開発したい」と相談に来られたことがきっかけでした。このプロジェクトに、私が協働していたほかの企業も深く関与していただけるようになり、仙台市のご担当者にも関心を持っていただくことができました。

 この拠点ビルは耐震構造で、災害発生時に必要になる非常用電源設備・備蓄・マンホールトイレ等を揃えています。災害時の一時滞在施設にもなります。また、普段は企業の防災発信拠点として、防災グッズの展示や防災学習等に利用されます。この拠点は、2022 年 3 月、「仙台長町未来共創センター」として竣工予定で、IRIDeS としても同センターの活動に参画していきたいと考えています。これまで仙台市に企業防災の情報発信拠点はありませんでした。それを初めて構築したことになります。

 

▷これからの産学連携

産学間ディスカッションの様子

 以上、私が携わってきた産学連携の実例を紹介しました。企業は社会の主体の重要な一部です。私のように、社会を対象とした専門分野の場合は、おのずと活動の主体として企業が関係してきますので、産学連携は必然的に発生することになります。

 

 私が連携している企業は、防災に取り組むにあたり自社のメリットはもちろん考えますが、それだけでなく、CSR(企業の社会的責任)と社会における信頼構築を重視しているといえます。そのため、その活動の受益者は、行政や地域住民が含まれることになります。

 私の企業・組織の防災分野における産学連携の成果には、何かの設備や機器を開発したり、特許を取ったりは含まれません。このような産学連携活動に関しても、一般化して公開できるものに関しては論文としても発表していきたいと思っていますが、個々の企業の戦略に関わる部分は論文にして発表することが難しいので、その代わり、社会への発信や企業と社会の仕組みづくり、行政と企業の連携した防災対応の向上などの事実を成果として認めてもらえるように努めています。

 研究が多様であるように、産学連携も、どの企業と何に取り組むかで全く内容が異なってきます。しかしどの分野でも、今後、産学連携はますます重要になっていくでしょう。企業には企業の考え方があり、大学とは異なるところも多くあります。次世代の研究者も、産学の互いの違いを理解し、連携に必要なノウハウを身に着けて、ぜひ新たな協働の地平を開拓していってほしいと思います。

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【お問い合わせ】
 IRIDeS広報室 電話 022-752-2049、Eメール @
 

 

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