IRIDeS NEWs | 東北大学 災害科学国際研究所 IRIDeS

2019.1.25

東日本大震災から8年 -IRIDeS研究者の被災地復興へのかかわり①-

2019年3月11日で、東日本大震災から8 年となりました。
IRIDeSは震災復興への貢献をミッションの一つとし、さまざまな分野の研究者が
復興に関する研究・実践活動を行ってきました。
多くの復興事業が一段落し、被災地の景観が大きく変わったいま、
医学・工学・社会科学の研究者に、これまでの活動について聞きました。

 

 

原子力事故対応を経て、災害放射線科学の研究とコミュニケーションを続ける

災害医学研究部門   千田 浩一 教授

 東日本大震災の前から、放射線科学・放射線被ばく分野で研究・教育・実践活動を行ってきました。福島第一原子力発電所事故発生後は、宮城県からの要請を受け、さまざまな形で事故対応に携わることになりました。東北大学病院は、主に福島第一原発30km 圏内からの避難者の方々の放射能検査と、必要が生じた場合は除染を行いましたが、その検査・除染体制づくりと実施に協力しました。

 

 また、2011 年3 月15 日からは、宮城県庁に設置された「原発事故相談窓口」の支援も行いました。この窓口には、放射線の影響などを尋ねる数多くの電話相談等が寄せられました。電話には基本的に県職員が対応し、私は日中、県庁に詰めてアドバイザーをつとめましたが、専門的な内容の場合など、私自身が電話でお答えしました。約1 か月間にわたり、自治体・医療機関・一般の方々等からの多岐にわたる問い合わせに対応した結果、放射線に関する科学的知識が、社会にどれだけ知られていないかを痛感しました。この経験から、放射線に関する基礎知識や生活への影響について、学術的立場から、子どもやその家族へわかりやすく解説するパンフレットを、対象年齢ごとに分けて作成することになりました。放射線や被ばくとは何か、という基本的なことから、日常生活で気をつける点、健康への影響などに加え、まだわかっていないことについても伝える内容で、これらパンフレットは、福島県内を中心に活用いただいています。現在に至るまで、IRIDeS の防災教育専門家と連携した放射線教育に関する講演や、福島県立医大の先生方との放射線教育教材開発共同研究、一般市民の方々向けの放射線や防護に関するセミナーなど、地道な科学コミュニケーション推進の努力を続けています。

 

 放射線の人体への影響を、新たな視点から明らかにする研究も行ってきました。近年、従来考えられていた線量より少ない被ばくでも目の水晶体が傷つき、白内障等を引き起こす危険性が指摘されています。それを受け、放射線医療従事者を対象に、水晶体被ばく線量を正確に測定し、適切な防護方法に関する提言を行う論文を、研究チームとともに発表しました1)。この研究成果は、今後、廃炉作業従事者の目の被ばく防護にも生かせる可能性があります。また、微量の血液から被ばく線量を推定できる現象を発見し、これも論文として発表しました2)。将来、線量計が入手できないような場合にも、被ばく測定が容易に行えるようになる可能性があります。

 

 その他、放射線関連機器の開発にも携わり、停電時にも稼働できる放射線検査機器や、従来型より安全で使いやすく、確実に計測できる、患者さん用のリアルタイム被ばく線量計3)(特許取得)の開発を主導しました。2018 年10 月には、「震災から7 年 復興と放射線技術学」をテーマに仙台にて日本放射線技術学会秋季学術大会を主宰し、IRIDeS 所有の各種展示物を出展するなどして全国からの参加者に情報発信を行いました。東北大学病院が年1回実施する「緊急被ばく医療傷病者受け入れ訓練」にもスーパーバイザーとして積極的に貢献協力しています。

 

 今後も、放射線科学・放射線被ばくに関する研究・教育・実践活動を行っていくつもりです。この8 年で、福島県内では放射線に対する知識と理解が深まりましたが、現在は、福島県外との知識ギャップが課題になっています。将来、さまざまな場所で放射線科学の知識を伝える努力も続けていきたいと考えています。

 

放射線を対象年齢ごとに解説するパンフレット 小学校低学年用、小学校高学年用、保護者用、高齢者用の4 種類。 (予め福島県内の小学校にて行ったアンケート調査結果に基づきパン フレットの項目内容を検討した。)

 

 

1) Haga Y, Chida K, Kaga Y, Sota M, Meguro T, Zuguchi M. “Occupational eye dose in interventional cardiology procedures.”, Scientific Reports , 2017 Apr 3;7(1):569. doi: 10.1038/s41598-017-00556-3.
2) Sun L, Inaba Y, Sato K, Hirayama A, Tsuboi K, Okazaki R, Chida K, Moritake T., “Dose-dependent decrease in anti-oxidant capacity of whole blood after irradiation: A novel potential marker for biodosimetry.” Scientific Reports , 2018 May 9;8(1):7425. doi: 10.1038/s41598-018-25650-y.
3) Nakamura M, Chida K, Zuguchi M, “Red emission phosphor for real-time skin dosimeter for fluoroscopy and interventional radiology”, Medical Physics , 41(10), 2014.

 

IRIDeS研究者の被災地復興へのかかわり(②) (③) へ

 

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【お問い合わせ】IRIDeS広報室 電話 022-752-2049、Eメール koho-office*irides.tohoku.ac.jp (*を@で置き換えてください)

 

 

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