IRIDeS NEWs | 東北大学 災害科学国際研究所 IRIDeS

2019.3.1

東日本大震災から8年 -IRIDeS研究者の被災地復興へのかかわり③-

2019年3月11日で、東日本大震災から8 年となりました。
IRIDeSは震災復興への貢献をミッションの一つとし、さまざまな分野の研究者が
復興に関する研究・実践活動を行ってきました。
多くの復興事業が一段落し、被災地の景観が大きく変わったいま、
医学・工学・社会科学の研究者に、これまでの活動について聞きました。

被災地の民衆知と復興制度を橋渡し

松本 行真 准教授

 福島県いわき市沿岸地域の豊間地区、特に薄磯地区の復興まちづくりに関与し、薄磯復興協議委員会や、海まち・とよま市民会議にオブザーバーとして定期的に出席してきました。私が果たした主な役割は、地域と国・自治体、地域内の住民同士をつなぐ手助けをし、復興の触媒となることです。具体的には、復興事業の進行に伴い、被災地には今までその土地に馴染みがなかった知識が入ってきましたが、それら新しい知識は、地域の慣習をふまえなければ、地域に根づくことはありません。私の役割は、地域の民衆知(ローカルナレッジ)と、復興制度の双方を理解するようつとめ、ややもすると対立しがちになる被災地と行政、住民同士の橋渡しをすることでした。知識の翻訳者、または意思決定における交通整理ともいえると思います。

 

 住民との距離感をどうするか、ずっと悩み続けていました。住民が私のようなオブザーバーに頼りすぎる状況をつくってしまっては、自律的な復興の妨げとなってしまいます。また、専門家は関連する情報の扱い方・さばき方の訓練を受けていますが、一般住民との情報量の差は情報通信技術が発達する今、もはや昔ほどではありません。そのため、住民とは対等な立場を心がけ、住民の手を引っ張るのではなく、声援を送りながら伴走するイメージでやってきました。率直に意見を戦わせ、地域の活動が停滞している時などは直言して、住民を本気で怒らせたこともありますし、逆に「先生、それ違うんじゃない」とコテンパンにされることもよくありました。提案はしますが、押しつけにならないよう、受け入れるかどうかは地元の人たちが決められるように心がけてきました。自分がいなくなっても問題なくやっていけるように、敢えて関与を減らすようにもしています。本音では少し寂しい気もしますが……。様々な試行錯誤を経て、行政と住民の役割分担に基づく、本来の「協働」による住民主導の地域づくりができるようになったかと考えています。

 

 被災地に限らず我が国の最大の課題は、地域の人材育成だと考えます。今回の震災で復興を牽引した70 ~ 80 代がバトンを渡せるような、60 代以下の若い世代を育てないといけません。地域の人間関係の形成は、日本全国の防災の問題でもあります。平時から最低限の人間関係が構築されていれば、災害対応も可能と考えるからです。たとえば、ふだんから回覧板を手渡しし、ゴミ収集・草刈りや祭などに共に参加していれば、隣近所や町内の状況が把握できます。その人間関係があれば、災害発生時の「共助」が自ずと生まれてきます。昔ながらの人間関係はしばしば重く感じられ、至る所で衰退傾向にありますが、あの災害と復興過程を経験し、ある程度の人間関係の形成はやはり防災にとっても必要だと、再認識されたのではないでしょうか。一度自由を経験したという意味で、現代社会に即した、諸個人間による新たな「つながりのかたち」が、結果として災害対応に寄与する仕組み(「結果防災」)を考えていきたいです。

 

 復興の定義は人によってさまざまですが、私は復興を「自生的秩序の回復と再構築」と捉え、被災地を支援してきました。社会科学系は工学系と違い、大抵の成果がかたちとして表れるような実装ではないので、その成果がわかりにくいかもしれません。私が実践的にかかわった復興の評価は、後世の判断を待たねばなりません。社会はもともと複層的でわかりにくいものです。社会は災害後に劇的に変わってしまうわけでなく、基本的には災害前の特徴がそのまま引きずられていきます。社会科学のつとめは、人や社会の基層にあるものを探求し、かつ人や社会の織りなす物語という表象を「できるだけ客観的に」観察する、その上で「控えめな」提言を行うことではないでしょうか。付言すれば、分析や提案のために過度な単純化を施したり、わかりやすさを求めてセンセーショナルにしないよう、留意しなければなりません。

修徳院にて開催された薄磯まちづくり検討委員会(2016年8月5日)

薄磯海岸で開催されたイベント(2018年6月30日)

(写真:松本行真准教授)

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