IRIDeS NEWs | 東北大学 災害科学国際研究所 IRIDeS

2019.2.8

東日本大震災から8年 -IRIDeS研究者の被災地復興へのかかわり②-

2019年3月11日で、東日本大震災から8 年となりました。
IRIDeSは震災復興への貢献をミッションの一つとし、さまざまな分野の研究者が
復興に関する研究・実践活動を行ってきました。
多くの復興事業が一段落し、被災地の景観が大きく変わったいま、
医学・工学・社会科学の研究者に、これまでの活動について聞きました。

 

 

工学の立場から復興事業の実務的・実践的支援

情報管理・社会連携部門 平野 勝也 准教授

 宮城県・岩手県の数多くの復興事業に協力してきました。特に大きくかかわったのは宮城県石巻市と女川町です。石巻市では、東北大学工学研究科の小野田泰明教授・姥浦道生准教授(IRIDeS 兼任)と、土木・建築・都市計画の各分野をカバーする支援チームを組み、今日まで支援を続けてきました。中心市街地・各半島・拠点集落など、石巻市のほとんどの復興事業にかかわっています。女川町では、復興まちづくりデザイン会議の委員長をつとめてきました。

 

 防潮堤にもかかわりました。岩手県・宮城県の防潮堤デザインの指針策定を支援したほか、個別に防潮堤の設計も手伝っています。防潮堤は社会で大きな論議を呼んだこともあり、悩みながら進めました。防潮堤には、津波や高潮から地域を守る利点がある一方で、高額な建設・維持費、環境や景観面でマイナス面があります。反対される方は防潮堤の悪影響をゼロにしたいのですが、私としては、現実を踏まえながら、頑張って100 の悪影響を90 まで減らした、という実感です。

 

 一部の復興事業では支援チームで基本設計図面作成まで行いましたが、専門家として果たした全般的な役割は、アド線量計3)(特許取得)の開発を主導しました。2018 年10 月には、「震災から7 年 復興と放射線技術学」をテーマに仙台にて日本放射線技術学会秋季学術大会を主宰し、IRIDeS 所有の各種展示物を出展するなどして全国からの参加者に情報発信を行いました。東北大学病院が年1回実施する「緊急被ばく医療傷病者受け入れ訓練」にもスーパーバイザーとして積極的に貢献協力しています。バイザーとして設計水準を少しでも上げるよう助言することでした。デザインは、する人によって良し悪しがはっきり出るものです。住民がこの先ずっと住み続けるまちを作るわけですから、使い勝手・維持管理のしやすさ・美観を含め、工学系の専門知識が生きた質の高いものになるよう尽力しました。ただし、押しつけにならないよう、自治体の立場や住民の思いも聞きながら、必要に応じて計画を修正して一緒に走ってきました。そもそも土木事業とは、一人ではできない集団作業です。

 

 事業間調整も頻繁に行いました。例えば、石巻市中心市街地における事業は道路・河川・海岸・都市・住宅といった縦割りのほか、事業主体も国・県・市の事業が絡み合い、意思決定は極めて複雑で細分化されていました。それらを束ね、矛盾しないまちづくりに持って行くよう尽力しました。また、今回の復興事業は市町村が一義的な責任を負いましたが、例えば主要インフラはほとんど県の管理であるなど、市町村だけで進めることはできません。県と市の間に立ち、事業が円滑に進むための調整役も担いました。

 

 これら復興事業へのかかわりは、既存の知識をどう集め、制度・制約の中で実現させていくかという実践ですから、土木工学分野の研究論文に直接つながることはありません。しかし今後、後世に役立つ記録としてまとめ、残したいと思っています。また、今回の経験を、南海トラフ巨大地震対応にも柔軟に生かしていきたいと考えています。

 

 発展途上国では、復興やビルド・バック・ベター4)を、発災前より安全性を高めるまちづくり、と解釈するケースが多いようです。しかし、東日本大震災被災地には違った文脈があります。津波で流され更地になってしまった地域を、持続可能なまちとしてどう成立させられるか。すなわち、この人口減少時代の日本において、維持費がかからずコンパクトにする一方で、地域の課題を解決しながら、景観や経済面で新しい魅力を付加し、人間が生き生き住めるまちを作っていくことが、東北のビルド・バック・ベターではないかと思います。

 

 東北被災地には復興事業に携わるために多くの人が入っていましたが、今後、それらの人々がいなくなり、一気に人口が減って厳しい時代に入ることが予想されます。その中で、まちをどう維持・継続していけるのか。私の専門である工学的なハード面ではなく、むしろ人間がかかわるソフト面が鍵になると思われますが、引き続き支援していくつもりです。

宮城県女川町(2011年4月12日)

女川駅前レンガみち周辺地区(2016年9月25日)
「女川町復興まちづくりデザイン会議」(委員長:平野准教授)がデザインを監修して設計され、平成30 年度都市景観大賞(国土交通大臣賞)を受賞。

 

(写真:平野勝也准教授)

 

4) ビルド・バック・ベター(よりよい復興)とは、災害からの復興過程に、インフラや社会システムの復旧、暮らし・経済・環境の再興を統合的に組み込みながら、発災前より国やコミュニティの防災力が高まるようにすること。第3 回国連防災世界会議で策定された世界全体の将来の防災指針「仙台防災枠組2015-2030」の優先行動の一つにも指定されている。

 

IRIDeS研究者の被災地復興へのかかわり 

 

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【お問い合わせ】IRIDeS広報室 電話 022-752-2049、Eメール koho-office*irides.tohoku.ac.jp (*を@で置き換えてください)

 

 

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