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2021.3.5

【特集】東日本大震災からのスタートー IRIDeS研究者が復興と震災教訓の継承について話し合う(3)

【特集】東日本大震災からのスタートー IRIDeS研究者が復興と震災教訓の継承について話し合う(1)

【特集】東日本大震災からのスタートー IRIDeS研究者が復興と震災教訓の継承について話し合う(2)」の続き。


 
▷東日本大震災からの住宅復興を国際的視点から考える
 
 
丸谷:ではマリ先生お願いします。
 

マリ エリザベス 准教授

マリ:第47章「よりよい住宅復興とは-国際比較から考える」を担当しました。東日本大震災については、必要住宅数が極めて多く、被災地は多様で、仮住まい生活も長くなり、住宅復興は容易ではありませんでした。優れた住宅復興支援の国際的な共通点は、①選択肢が多く柔軟性が高いこと、②良質な建築(設計・建材両面)で快適な住環境を整えること、の2点と考えています。東日本大震災では、この点に合致する事例がありました。


 まず、被災者の選択肢が増えたこととしては、プレハブ仮設住宅のみならず、みなし仮設住宅が大規模に提供されたことがあります。この場合新たな建設地が不要ですから、今後、都市部での災害発生時にも適用できるかもしれません。また、良質な建築で住環境を整えた例としては、木造仮設住宅の提供が挙げられ、福島県では約7,000戸が建設されました。岩手県住田町で、グループ補助金を用い、地元工務店が地元材料を使って木造仮設住宅を建設した事例など、建材だけでなく仕組みの上でも注目すべきところがありました。


 通常、仮設住宅は県、復興住宅は市町村と管轄が異なり、仮設住宅から復興住宅への転用は難しいのですが、福島県会津若松では、仮設住宅を復興公営住宅として再利用した事例もありました。アメリカも縦割りがある中、仮設のコアハウスを利用して増築し復興住宅とする仕組みづくりが進んでいます。住宅転用に関する今後の可能性に注目しています。

 

 

福島県会津若松で仮設住宅を
復興公営住宅として再利用
(提供:マリ エリザベス 准教授)

 担当した章の最後で、国際的な防災指針「仙台防災枠組」に触れました。「よりよい復興」(ビルド・バック・ベター)にはいろいろな議論がありますが、仙台防災枠組は、多様な当事者を含めることや、復興を包括的に捉える重要性を述べています。未だ多くの国で住宅復興政策の大幅改善が必要で、日本でも原発避難者が未だ生活再建の目途が立てられていませんが、国内外で、被災者の生活をより包括的に支援する住宅復興プロセスは進化してきました。

 
 

佐藤大:町の移転についてはどうお考えですか。古い街並みは沿岸部にもたくさんあります。歴史学の立場からは、高台移転が促進されてしまうことで、自然環境と人との交流によって築かれてきた街並みが破壊されてしまうことを強く懸念します。

 
 

マリ:重要かつ単純に答えが出ない問題です。アメリカでは被災した場所を買い上げ、お金を渡して終わりだったりします。国際的に、東日本大震災後の大規模高台移転事業は極めて珍しいものです。高台移転で宅地と店の場所が別になり、特に高齢者にとっては暮らしにくくなった面があります。フィリピンでも、移転により頑丈な家が手に入った一方で、仕事がなく困る事例があります。安全だけでは足りないのです。

 
 

丸谷:私も、仮設住宅と災害公営住宅を連続的に捉える発想に賛成です。しかし、被災後、迅速に仮設住宅の建設場所を見つけねばならない一方で、恒久的に使える土地を確保しないと公営住宅は建てられない問題があります。土地は簡単に見つからず、学校の校庭を取りあえず使うようなことになり、そこでは恒常的な住宅は建てられないわけで、これは行政の縦割りを超えた問題です。今後、海外の参考事例など紹介いただいて解決策を提案できれば、行政も現実的に関心を持てるかもしれません。また、東日本大震災で木造の仮設住宅が建設された背景に、プレハブ住宅供給が間に合わなかったこと、復興需要を地元でという声などがあったので、木造住宅がいいというだけの話ではなかったと思います。

 
 

マリ:住宅復興の一番のネックは、どの国でも土地の問題です。北海道厚真町被災地で、トレーラーハウスが仮設住宅として利用されたことにも注目しています。被災者に選択肢が多いのは良いことですが、ご指摘のとおり簡単な話ではないので、今後も考えていきたいと思います。

 
 
▷東北被災地にとっての「よりよい復興(ビルド・バック・ベター)」とは
 
 

丸谷:最後に、「よりよい復興(ビルド・バック・ベター)」について議論したいと思います。開発途上国の被災地においては、良い復興ができれば、より良い社会と経済発展が期待できます。しかし、東日本大震災の被災地に関し、ビルド・バック・ベターという言葉をどう捉えればよいのか、私自身答えが出ず、ずっと考えてきました。仙台周辺の市町村を除き、被災地の人口は減少しており、経済復興にも影響が出るでしょう。例えば気仙沼や石巻では、製造業の出荷額は戻っていません。女川の人口も半減です。その中で、仙台防災枠組を重視するIRIDeSの研究者として、どうすれば被災地のビルド・バック・ベターになると考えますか。

 
 

佐藤翔:「みやぎ防災・減災円卓会議」でも復興について考え、復興という言葉が行政・メディアで多用される一方で、被災者の生活に馴染んでいないという意見が出ました。とはいえ代替案も浮かばないのですが。人口数や経済面でベターと考えがちですが、評価軸は定性的なものも含めいろいろありえます。多くの人が評価軸について話し合い、納得できる場が必要ですね。

 
 

佐藤大:非常にシビアな現実の一方で、復興地域に入り、新しい農林水産業や文化活動を始めた方もいて、歴史的な時間軸からは、評価はまだこれからではないかとも思います。


 歴史資料の関係では、間もなく旧石巻文化センターが再建されます。歴史文化に関する地域の拠点が少しずつ出来ています。それから歴史資料を通じて、震災で地域を離れた人も含め、人や過去との関係が再構築されると思います。長い時間軸で事象を俯瞰する歴史学の立場から、震災後の変容に注目しつつ、一方で歴史資料保全活動等を通じて、人々との様々な関係を結び直すことを行い、今後も地域と関わり研究を進め、不断に考えていきたいと思っています。

 
 

マリ:日本語の「復興」には、前より良くする意味が元々含まれています。「復興」「ビルド・バック・ベター」「よりよい復興」は、各々ニュアンスが異なります。前より良くしたいのが当然なので、ビルド・バック・ベターは多用されますが、実際は人によって違う意味で使われています。また、高台移転のように、災害リスクの上ではsaferになっても、人のつながりを失い総合的にbetterといえないこともあります。よって私はビルド・バック・ベターではなく「人間中心住宅復興」という言葉を使っています。仙台防災枠組にも人間中心という言葉が結構入っていますね。また、原発事故の避難者に故郷が戻ることはなく、これは復興では解決できず、ビルド・バック・ベターに当てはまらない複雑な問題です。津波と原発の被災地は別々に考える必要があります。

 
 

丸谷:数字の上での被災地の賑わいが難しい中、人間・文化・コミュニティ・交流などを鍵に、豊かさや幸せを考える必要がありそうですね。私の専門分野の経済面、行政や組織では解決しにくい点もあり、これからの10年、ぜひIRIDeSの学際的なつながりを生かし、被災地をより良くする観点を見つけていきたいと思います。

 
(座談会実施:2021年1月25日)
 

*『東日本大震災からのスタート:災害を考える51のアプローチ』協力:指定国立大学災害科学世界トップレベル研究拠点、東北大学変動地球共生学卓越大学院プログラム、東北大学災害科学・安全学国際共同大学院プログラム、東北大学コンダクター型災害保健医療人材の養成プログラム、革新的研究開発プログラム タフ・ロボティクス・チャレンジ。

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