地球環境との付き合い方を考える際、大地や大気、生物との関係のなかで培われた人々の知恵や営みへの理解が大切です。私は農山村の景観と空間立地を読み解くことで、土地利用の工夫の評価や、社会変容により生じる課題の改善に取組んでいます。
なかでも中国内陸の半乾燥地・黄土高原は地球環境問題の最前線です。森林と草原の劣化が、食料不足や貧困、水害・土砂災害、砂塵嵐、旱魃を引き起こしてきました。20世紀末からは世界最大規模の植林緑化が進められましたが、生態系修復が地域の農業・農村環境を変化させたことで新たな課題も生じています。現在は、植林後の社会変容を観察し、住民生活や食料の面から持続的な社会について考えています。
さらに、植林緑化以前の自然・文化景観を、プロパガンダ情報を取り除いて面的・定量的に復元する試みを進めています。これは、近代までの農村開発、自然再生、自然荒廃と、計画経済時代および改革開放以降の時代のそれらとを明確に区別、比較できるようにすることで、中国および大陸アジアの近現代史を自然環境、自然災害との関係から再構築しようとする取組みでもあります。そのために、機密解除された、米軍偵察衛星画像、CIAの高高度偵察機U2撮影空中写真、ソ連軍参謀本部作成軍用地形図、以上の関連文書、中国の過去の地域統計資料や地方志を収集し、GIS(地理情報システム)を活用して分析を行っています。
加えて、「誰一人取り残さない」インクルーシブな防災のためのソリューション創出を目指す科学技術振興機構(JST)の「SOLVE for SDGs」プロジェクトや、災害統計グローバルセンター、災害レジリエンス共創センターのミッションにも参画し、仙台市をはじめ国内外のフィールドにおいて、所内外の研究者や行政関係者、地域の方々らと連携した課題解決型の研究、社会実装に取組んでいます。
また、持続可能な発展・開発のための教育(ESD: Education for Sustainable Development)、SDGs・ポストSDGsを見据えた教育の開発・実践にも、東京大学大学院総合文化研究科・教養学部ならびに大学院農学生命科学研究科・農学部、立教大学ESD研究所などの研究者やNPOスタッフらとともに取組んでいます。
Hara, Y. (2022). Restoration of the distribution of pit-type yaodong dwellings in the 1970s using US military reconnaissance satellite images in Luoyang Basin, China. Journal of Arid Land Studies, 30(1).
原 裕太(2021). 中国における水田養殖業および水田養殖研究の展開と課題.E-journal GEO,16(1),pp.70-86. doi: 10.4157/ejgeo.16.70.
原 裕太ほか(2017). 黄土高原・陝西省呉起県農村における河岸地域の経済的優位性 : 呉倉堡郷の行政統計表を用いて.地理学評論,90(4),pp.363-375.doi: 10.4157/grj.90.363.
原 裕太ほか(2015). 伊豆大島の防風林形成過程にみる地域生物資源の利活用.E-journal GEO,10(1),pp.67-80. doi: 10.4157/ejgeo.10.67.