我が国の大都市は、厚い堆積地盤上に成立しています。このため、巨大地震が発生した場合にその長周期成分が増幅され、固有周期の長い長大構造物が選択的に影響を受けます。超高層ビルのエレベータが停止して閉じ込め事象を発生したり、ゆっくりとした大きな揺れが長時間収まらないなどの問題を生じることがあります。残念ながら、従来の構造物振動制御技術の延長ではこのような課題の解決が難しくなってきています。当研究室では、振動の長周期成分に対して選択的に制御力を発揮する次世代型の振動制御デバイスに関する研究開発を行っています。
力学系と電子回路には、その数理モデルにおいて相似性があることは知られていましたが、電子回路のコンデンサには二つの端子があるのに対して、力学系において対応する質量要素は節点が一つだけです。そこで、節点が二つあってその二節点間の相対加速度に比例する抵抗力を発揮する見掛け質量要素として inerter が提案・定義され、その応用が検討されてきました。これまで、数十kg~数百kg程度までの装置しか実現されておりませんでしたが、当研究室で企業との共同研究により、建築物の制御に応用可能な数千tonの質量効果を発揮する装置の開発に成功しました。この装置は、「慣性こま」という名称で実用化・製品化され、既に建築物の制振装置として採用されています。
超高層建築物に大きな地震動が作用して建物が水平変形すると、地震力に加えて変形と重力の作用により付加的な曲げモーメントが発生します。この付加的な曲げモーメントは、幾何学的非線形効果に起因するものであり、P-Δモーメントとも呼ばれます。東日本大震災以前の設計用地震動の想定範囲では、このような効果が建物の崩壊にまで影響するとは考えられていませんでしたが、マグニチュード9級の巨大地震動を設計の想定外と出来なくなった今、この効果を設計検討に含めることは必須となります。当研究室では、このような幾何学的非線形効果に伴って生じる建築物の終局崩壊挙動の解明とその防止策について研究しています。