組織・メンバー

災害人文社会研究部門
レジリエンス計画研究分野
准教授
Ph.D.(都市・地域計画)
IUCHI Kanako
いうち かなこ

研究テーマ
レジリエントな復興を目指した、計画のプロセスや行政・住民のガバナンスの在り方や、移転・再定住計画の普遍的な枠組みの構築を目指して、日本・フィリピン・インドネシア・米国などの被災・復興地を対象に、主に質的調査を駆使した研究を進めています。
研究キーワード
復興計画、復興政策、復興ガバナンス、コミュニティ移転、再定住
研究概要

コミュニティ移転の失敗事例の多さから、移転はいかなる場面でも回避すべき政策だと長らく考えられてきました。しかし近年、災害復興における将来の被害軽減を目指した移転・再定住の妥当性について、国際的に議論が展開されています。そこで、2013年の台風ハイアンによって多大な被害を受けた比国レイテ島のタクロバン市や地域の方々に協力を得ながら、移転・再定住計画の実施プロセスと生活再建の過程を中・長期的に調査・分析しています。特に、災害リスクの高い沿岸の被災地と生活基盤が整っていない内陸の移転先の対照的な地域における生活再建について、相違点・共通点を探っています。

東日本大震災の被災地域では、将来の被害軽減を目指して、防潮堤などの防災施設の整備に加え、土地利用規制や集団移転などの各種事業を通じ、強靭かつ持続可能な空間形成を目指した復興が進められてきました。一方、被災した自治体や地域の方々による復興方針決定から事業実施に至る過程や、当初計画と実施事業の間に生じた相違は、時間の経過とともにその詳細が不明になってきています。そこで、行政から住民への情報提供など、計画策定過程から復興に至る様々な過程の差異が事業実施後の生活空間に与えた影響について、行政や住民を対象に調査し、後世への教訓と復興における計画学の前進につながるよう研究を進めています。

世界各地の被災後の再建において、将来の減災に向けた住民移転が多く考えられるようになってきました。しかし、減災を目指した移転事業の実施過程で生じる社会的損失(生計手段の喪失、社会ネットワークの崩壊など)もあるため、大規模移転による復興の是非や実施手段についての議論をまだまだ深める必要があります。そこで、2018年の中部スラウェシ地震からの移転復興過程を調査し、過去の事例との比較を通して、住民移転による被害軽減を目指す復興計画の長所・短所を明らかにし、満足度の高い生活空間再建のための計画と実施過程のあり方について、ガバナンスや計画過程の両面から探っています。

主な業績
  • Iuchi, K. and Mutter, J. (2020). Governing community relocation after major disasters: An analysis of three different approaches and their outcomes in Asia. Progress in Disaster Science Journal. Volume 6, 100071. DOI: https://doi.org/10.1016/j.pdisas.2020.100071.
  • Iuchi, K., Jibiki, Y., Solidum, R., Santiago, R. (2019). Natural Hazards Governance in the Philippines. Oxford encyclopedia of natural hazards governance. Oxford University Press. DOI: 10.1093/acrefore/9780199389407.013.233
  • Santiago-Fandino, V., Sato, S., Maki, N., & Iuchi, K. (Eds.). (2018). The 2011 Japan earthquake and tsunami: Reconstruction and restoration insights and assessment after 5 years. Switzerland: Springer. doi:10.1007/978-3-319-58691-5
  • Iuchi, K. and E. Maly. (2016). Residential Relocation Processes in Coastal Areas: Tacloban City after Typhoon Yolanda. Chapter 14 in: Sapat, A. and Esnard, A-M. (Eds.). Coming Home after Disaster: Multiple Dimensions of Housing Recovery. Routledge: CRC Press. Boca Raton, Fl. Pp. 209-226.
  • Iuchi, K. (2014). Planning resettlement after disasters. Journal of the American Planning Association, 80(4): 413-425. https://doi.org/10.1080/01944363.2014.978353
主な所属学会
  • 日本都市計画学会
  • 地域安全学会
  • American Association of Geographers
  • American Planning Association
  • Earthquake Engineering Research Institute
主な受賞
  • Case Study Awards. “Rhetoric of recovering resilient: Unveiling how building back safer transforms into development for prosperity (A case of post-Yolanda rebuilding)”について, Lincoln Institute of Land Policy and ACSP, 2018
その他

国際開発プロジェクトにおける現場経験や国際機関での実務経験より、政策や計画に関する理想と現実のギャップに直面してきました。支援が最も必要な社会的・経済的に弱い立場の人々が計画や政策から外れてしまう場合が多いことを知るにつれ、彼らの居場所もある社会を創造する方策について学術的に探求することの重要性を感じ、研究活動を行っています。災害復興期の研究では、政策や計画が地域住民の生活に与える影響の解明や、公的な支援から外れる住民などにスポットライトをあてることで、従前よりも住みやすい地域の再生につながる計画や制度、その立案・実施過程について提案したいと考えています。筑波大学、コーネル大学、イリノイ大学アーバナシャンペン校で学び、開発コンサルティング会社や世界銀行などでの勤務を経て2013年より現職についています。