令和3年4月に施行された科学技術・イノベーション基本法において、科学技術があらゆる分野の知見を総合的に活用して社会課題に対応していくという方針が示されました。これは、我が国の科学技術・イノベーション政策が、人文・社会科学と自然科学を含むあらゆる「知」の融合による「総合知」により、人間や社会の総合的理解と課題解決に資することの必要性とその方向性を指したものです。
これらを背景に、東北大学災害科学国際研究所と学内の部局が連携し、「総合知」を活用して社会の「災害レジリエンス」の向上を実現する「災害レジリエンス共創センター」を設立しました。
災害レジリエンス共創センターは、災害による社会の機能損失を低減して速やかに回復し、より良く復興するための「災害レジリエンス」の向上に資することを目標とし、多様な主体との連携により「防災総合知」を探求し、社会に実装することを理念として掲げています。
センターでは、「災害レジリエンス数量化」、「ヒューマンレジリエンス」、「災害情報キュレーション」および「災害レジリエンス共創」の4つの重点研究領域を構成します。シンボルプロジェクトとして新たに構築する「災害デジタルツイン」での災害過程の分析を通じて、被災した社会が速やかに回復するための方策や、一人ひとりの多様な幸せ(well-being)を実現するための総合知を探求する研究に取り組みます。研究成果としての総合知を、研究コミュニティや社会に広く利用に供することで、レジリエントな社会の実現に寄与するとともに、それらを先導する人材育成プログラムを展開していきます。
災害レジリエンスとは
2015年第3回国連防災世界会議で採択された世界の防災指針「仙台防災枠組2015-2030」において、各国は災害に対する「レジリエンス」の強化を優先行動として同意しました。災害レジリエンスとは「災害に対するコミュニティや社会が、その基本構造や機能の維持・回復を通じて、災害の影響を適時にかつ効果的に防護・吸収し、対応するとともに、しなやかに回復する能力」として定義されており、仙台防災枠組の履行期間である2030年までに、これを実現するための実践的な研究を推進することが我々の責務です。
研究領域
①災害レジリエンス数量化研究領域
領域長:越村 俊一 教授
概念としての「災害レジリエンス」を数量化し、どのような方策・対応がレジリエンスを高めるのか、社会全体での効果を数量的に明らかにする方法論を確立する。また、シンボルプロジェクトである災害デジタルツインの基盤構築と、デジタルツインにおけるセンシング・モニタリング・シミュレーションによる「災害過程・社会動態の解明」を担当する。
②ヒューマンレジリエンス研究領域
領域長:江川 新一 教授
災害によって発生する身体的・精神的な健康被害をリアルタイムかつ定量的に把握し、データに基づく災害医療の意思決定を支援する。現実社会のなかで発生する医療情報と他の災害対応情報をデジタルツインの中で統合し、実務経験と情報基盤を活用したデータ駆動型の医療対応支援研究を強化する。病院と避難所・福祉避難所、自宅などにおけるデジタルトランスフォーメーションを活用して、自助力・共助力を高めるとともに、より細やかな公助につなげ、からだとこころの健康被害抑止を強化する。さらに災害によるメンタルヘルス被害・疾病構造の変化などをコホート研究を通して長期間追跡することで、デジタルツインに長期的なシミュレーションも組み入れ、人々のwell-being(ヒューマンレジリエンス)を高めるための研究を担当する。
③災害情報キュレーション研究領域
領域長:奥村 誠 教授
「キュレーション」とは、美術館の学芸員が数ある美術品の中からテーマに沿って選定し展示品の意義や魅力を理解しやすくする仕事を指す。本研究領域では、シンボルプロジェクトである災害デジタルツインから生み出される膨大な情報の中から、コミュニティや社会がとるべき行動の選択につながるような情報を選択・整理して、活用していく方法を研究する。社会の構造特性と内在する行動特性の理解をベースに、災害の社会現象としての変化過程のモデル化、災害対応策の列挙と整理、集合知構築のためのwhat-if分析結果の意味解釈を担当する。
④災害レジリエンス共創領域
領域長:小野 裕一 教授
災害レジリエンス共創領域は、国内外の社会における災害レジリエンスを高めるため、産官学民で連携してエビデンスに基づいた防災政策立案・社会実装へ取り組み、分析結果や研究成果を、可視化されたわかりやすい形で広く社会発信していくことを目指す。地理情報システム等を基盤として、防災情報の利用者が扱いやすいデータを整備・提供することで、個人の防災情報利用および防災技術や集合知の社会実装を促進する。
戦略推進委員会
役職・領域・担当 |
氏名 |
災害科学国際研究所・所長 |
栗山 進一 教授 |
災害科学国際研究所・副所長 |
越村 俊一 教授
小野 裕一 教授
|
センター長
ヒューマンレジリエンス研究領域長 |
江川 新一 教授 |
副センター長
災害レジリエンス数量化研究領域長 |
越村 俊一 教授 |
災害情報キュレーション研究領域長 |
奥村 誠 教授 |
災害レジリエンス共創領域長 |
小野 裕一 教授 |
環境科学研究科・教授 |
中谷 友樹 教授 |
防災科学技術研究所・
マルチハザードリスク評価研究部門 |
藤原 広行 部門長 |
防災科学技術研究所・
防災情報研究部門
|
臼田 裕一郎 部門長 |
センター 連携・広報等担当
GIS総合窓口、連携、広報 |
武田 百合子 学術研究員 |
URA、広報 |
中鉢 奈津子 特任准教授
(IRIDeS 広報室兼務) |
広報 |
今野 公美子 特任准教授
(IRIDeS 広報室兼務) |
シンボルプロジェクト
災害デジタルツイン構築プロジェクト
「災害レジリエンス」を、社会の機能損失・低下からの回復過程と定義し、機能損失・低下の幅と回復期間をできるだけ短縮化するための方策や支援策を導き出す災害デジタルツイン・コンピューティング基盤を構築し、災害を再現できる仮想空間での災害過程の分析を通じて、災害予測・被害把握・対応・復旧・復興のあらゆるフェーズの知識・情報を集積した「防災総合知」を導き出すことで、レジリエントな社会の実現に貢献します。
災害デジタルツインでは、物理世界の多様な観測データと社会動態のデータをリアルタイムで仮想世界に取り込み、仮想世界におけるシミュレーション分析を行います。デジタルツイン上で、考えられる複数のシナリオや方策に対する効果を計算・評価して何が最も望ましいかを検討することで、最良の施策を決定し、被災した社会が素早く回復するための方策や被災地の支援策を導きだします。
災害デジタルツイン構築プロジェクトでは、
1)被害・社会動態の可視化・動的マッピング機能
2)社会対応分析機能
3)防災総合知形成機能 という3つの機能と、この機能を実現するために以下の5つの重点研究テーマで構成します。
1. 統合シミュレーションによる災害の連鎖・複合過程の解明と可視化
2. センシングと即時予測の融合によるリアルタイム災害科学の創生
3. 継続的モニタリングによる被災社会のレジリエンス指標評価
4. 社会現象としての災害対応・復旧・復興過程の分析とレジリエンスの数量化
5. 災害対応のwhat-if分析とレジリエンス最大化を導く総合知の構築
これらの研究成果として、災害予測・被害把握・対応・復旧・復興のあらゆるフェーズの情報・知識を集積した「防災総合知」を形成し、大規模自然災害発生時の被害の波及と社会動態の迅速な把握を行うとともに、起こりうる被害の低減、社会の対応力低下の軽減、行動指針の策定、復旧・回復過程の迅速化・最適化などを通じて、被災地社会の災害に対するレジリエンスの強化を先導していきます。災害デジタルツイン・コンピューティング基盤の展開にあたっては、災害に関する現地調査や研究成果の展開、全世界での災害情報収集を含めた国際会議を開催するなどの取組も進めていきます。
防災科学技術研究所との連携について
2022年3月、防災科学技術研究所と東北大学は、レジリエントな社会の実現に向けた総合知の国際的学術研究拠点の形成に向け「連携及び協力の基本協定」を締結しました。災害レジリエンス共創センターは、本協定の理念にもとづき、「総合知」による「国際的学際研究拠点」の形成に向けた具体的な貢献を果たします。複雑化する災害に対して、的確な予測、被害の最小化、復旧の早期化、より良い復興を目指した「レジリエンス」を向上させる研究、社会実装とこれを担う人材育成を、防災科学技術研究所とともに進めていきます。
災害デジタルツイン・コンピューティング基盤の構成