大きな揺れを経験したり、経年的な劣化を受けたりした構造物が、現状どのような強度を有していて、今後発生する災害ハザードに対してどの程度の耐荷力を発揮するのか、発揮できないとしたらどのような過程を経て崩壊し、終局状態を迎えるのかについて予測・評価するための方法論は確立されていない。本研究では、数値解析に基づく災害リスク評価の精度向上を意図して、東北地方太平洋沖地震などの大きな負荷履歴に起因する剛性・強度の低下などの材料劣化、発災時のひび割れ生成と成長、応力伝達メカニズムの変化を経て崩壊に至る過程をマルチステージ破壊現象と定義し、これを複数の段階(ステージ)に分け、各ステージの現象の再現に実績があり信頼性の高い解析手法を適用してこれらをシームレスに繋ぎ、より確度の高い災害リスク評価に資する手法を構築した。
降雨により固体としての地山を支えている地盤から砂粒子のかみ合わせが外れて粘性流体かのごとく振る舞う物性変化をシームレスに繋ぐ数理モデルを構築し、地盤構造物の安定状態から崩壊過程を経て最終形態に至るまでを一気通貫で再現可能な数値シミュレーション手法を開発することを目的とする。具体的には、弾塑性材料としてのモデル化が適切な砂質地盤から、砂混じり水への遷移過程を含む材料構成則を粘弾性・粘塑性のレオロジーモデルに基づいて定式化するとともに、MPMを、固体材料挙動の表現性能がFEMと同程度になるように改良したシミュレーション手法を開発し、これらを組み合わせた解析手法を構築して現象の再現を試みている。
本研究では防潮林を多孔質体として近似し、その効果をマルチスケール数値実験によって評価する手法を提案した。具体的には、枝木スケール(ミクロ)・樹木スケール(メゾ)の2つのスケールでのマルチスケール数値実験から、それそれのスケールにおける特性値を求め、防潮林を多孔質体で構成されるマクロ構造物であると近似し、その抵抗則を用いて解析を行うスケールアップ型のマルチスケール解法である。これにより、防潮林の減衰効果を精緻に考慮した高潮・津波の広域被害予測シミュレーションが可能になった。