概要

所長ごあいさつ

世界が必要とする災害科学の知の創造と蓄積に貢献。
得られた知見を迅速に発信し、
ローカルかつグローバルに、防災を実践します。

東北大学 災害科学国際研究所 所長 栗山進一

 このたびの東北大学災害科学国際研究所(IRIDeS)所長就任にあたり、ご挨拶申し上げます。

 発足以来IRIDeSは、東日本大震災の教訓から学び、被災地の復興を支援するために、工学、理学、人文・社会科学、医学、防災実践の研究者が集まり、分野の枠を超えて学際的に協力してまいりました。当研究所の使命は、世界が必要とする災害科学の知の創造と蓄積に貢献し、得られた知見をすみやかに発信してローカルかつグローバルに実践していくことです。IRIDeS設立11年目に入った今、私は所長として、これまでに築いた成果をしっかりと継承しつつ、IRIDeSの最重要目標「東日本大震災をはじめとする、災害で被災された方々、また将来被災しうる方々の助けとなること」を見据え、長期展望を持って災害科学を深化させてまいります。

 私は医師であり、専門は災害公衆衛生学です。公衆衛生学は、人々の集団の中で病気を予防し、健康を増進させるための科学であり、実践です。
 東日本大震災に際し、私は各地の支援活動に従事するとともに、今日に至るまで、震災に関する大規模な中長期調査を実施してまいりました。この研究により、東日本大震災がもたらした被災者の方々の健康への悪影響の問題がいまだに続いていることが示されています。このようにして明らかとなったものを含め、被災地の課題に引き続き取り組んでいく所存です。
 また今後、人を健康な生活へと促す公衆衛生学の手法を防災分野にも応用し、一人ひとりが実際に防災行動を取られるように働きかけ、防災・減災をはかっていきたいと考えています。公衆衛生学では、疫学調査による健康状況把握、学習、法律制定、文化としての健康行動の定着など様々な手段を用いて国民健康運動を展開してきました。防災対策においても、無関心である方々や、その必要性を認識されつつもまだ実践されていない方々への働きかけを含め、同様の手法を用い、災害に対する備えや対応を格段に進めるための貢献を果たしたいと思っています。「ソナエル、ニゲル、タチナオル」をキーワードに、拡がりのある防災運動に結びつけていきたいと思います。

 東北大学は「社会とともにある大学」であり、IRIDeSは「社会とともにある研究所」です。これまでもIRIDeSは、災害発生時、情報を必要とされている方々に科学の知見を届けるため、ホームページや緊急速報会で社会発信してまいりました。今後も大きな災害が発生した際は、関係機関とも連携しながら原因を究明し、災害科学の総合知の観点から的確で有用な情報・提言を発信してまいります。
 一方で、災害被害を減らすためには、事前の防災が不可欠です。これは「仙台防災枠組」の根幹をなす理念でもあり、病気になる前に予防する公衆衛生学の考え方と合致するものでもあります。IRIDeSも平時からさまざまな方々と連携し、ともにレジリエントな社会を築いてまいりたいと思います。

 社会は、国難とも形容される南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、首都直下地震や、気候変動により激甚化する災害をはじめ、様々なリスクに直面しています。IRIDeSは、これら社会の重要課題を見据え、東北の復興と国内外の防災に引き続き取り組んでまいります。皆様のご支援・ご協力をよろしくお願い申し上げます。