このたび、東北大学災害科学国際研究所(IRIDeS)所長に就任いたしました。謹んでご挨拶申し上げます。
IRIDeSは、東日本大震災の翌年である2012年4月に設立されて以来、巨大災害から得られた教訓のもと、多様な学問分野の融合による学際的研究を通じて「防災総合知」を構築し、それを世界へと普及・活用することを使命として、社会とともに歩んでまいりました。

震災から15年が経過した現在、私たちは新たな課題に直面しています。災害の記憶の風化と教訓の継承、社会基盤の老朽化と機能低下、人口減少や高齢化といった社会構造の変化に加え、気候変動に伴う災害の激甚化、さらには南海トラフ地震や首都直下地震といった巨大災害の切迫性など、将来の国難は避けて通れない現実となっています。
一方で、技術革新による社会変革は、これらの課題解決に大きく寄与する可能性を秘めています。AIの進化と普及、量子技術を含む計算機性能とシミュレーション技術の飛躍的向上、自動運転技術の進展、フィジカルAI(ロボット)の高度化と自律化、強靱な通信基盤の整備、さらには個人デバイスの高機能化など、災害を乗り越えるための技術革新もまた、避けることのできない未来「Inevitable Future」であるといえます。
こうした背景のもと、IRIDeS所長として、技術革新と社会変革を基盤に災害科学の新たな価値を創出する取り組み「AI for DR4(Disaster Risk Reduction, Recovery and Resilience)」プロジェクトを立ち上げ、産官学民の連携体制のもとで推進してまいります。まずは、国産AI開発の先端を担う企業との産学連携により、防災に特化した大規模言語モデル(LLM)や視覚言語モデル(VLM)などの基盤モデル構築に取り組みます。これにより、歴史資料を含む過去の災害教訓、復興の事例から導き出す事前防災対策や事前復興計画等を体系的に学習し、将来の減災に資する高度な推論基盤の確立を目指します。さらに本取り組みを契機として、学内外の大学・研究機関・企業に広く参画を働きかけて連携を加速し、災害科学分野におけるAI利活用の実装を推進し、我が国初となる「データとAIによる防災総合知」の共同利用・共同研究・社会実装基盤の構築へと発展させてまいります。
また、2026年から2030年にかけての5年間は、IRIDeSの国際連携を飛躍的に拡大する重要な機会と位置づけています。とりわけ2027年には、仙台において三つの大規模国際会議が開催されます。秋に開催されるアジア太平洋防災閣僚級会議(APMCDRR)では、日本の防災技術の発信とともに、国際機関や各国との連携を通じたポスト仙台防災枠組への貢献が求められます。これに先立ち、春にはアジア太平洋防災科学技術会議(APSTCDRR)を開催するとともに、すべてのステークホルダーを包摂する「World Bosai Forum 2027」をAPMCDRRと連動して開催し、本学が有する防災総合知の発信と、国際的な災害科学コミュニティの形成を一層推進してまいります。
防災総合知の活用と普及には、多様な主体との連携が不可欠です。東日本大震災の被災自治体や国立研究開発法人防災科学技術研究所をはじめとする国内の大学・研究機関との連携を基盤としつつ、環太平洋大学協会(APRU)マルチハザードプログラムや災害科学コースの充実、専門職大学院「防災MPA」の新設に向けた人材育成の取り組みを強化してまいります。特に、2025年4月から公益財団法人上廣倫理財団によるご支援を受けた防災学寄附研究部門に関連して、災害伝承・防災教育・研究の体制強化を図るとともに、市民と研究をつなぐインターフェースとしての防災展示施設のさらなる充実に取り組んでまいります。
東北大学は「社会とともにある大学」であり、IRIDeSもまた「社会とともにある研究所」です。多様な主体との連携を通じて、世界の災害科学におけるHub(拠点)となり、そこから放射状に伸びるSpokeとして世界に知見を波及させ、国際的な知の循環に貢献してまいります。
今後とも、皆様のご支援とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。