研究・実践

2022年度 災害レジリエンス共創研究プロジェクト 採択課題

2022年度 災害レジリエンス共創研究プロジェクトとして採択された課題を掲載いたします。

  1 災害デジタルツインの開発に関連する研究

① 災害デジタルツイン実現に向けた調査研究

研究代表者

撫佐 昭裕(東北大学 サイバーサイエンスセンター)

所内共同研究者

越村 俊一(災害ジオインフォマティクス研究分野)

研究の概要

巨大災害発生時には、災害に関する情報の空白化や断片化が発生し、被災全体の把握が困難になり、そして災害初期対応に遅れが生じる。本研究は、シミュレーションやAIを活用し、空白化・断片化された情報の補完、さらには被災を受けた地域の社会動態を「先読み」する災害デジタルツインの調査研究を行うものである。

② 日本海溝型地震に伴う津波のリアルタイムリスク評価 ~八戸市を対象としたレジリエンス強化のための事例検証~

研究代表者

高瀬 慎介(八戸工業大学 大学院工学研究科)

所内共同研究者

越村 俊一(災害ジオインフォマティクス研究分野)

研究の概要

本研究では八戸市を対象に、近い将来襲来が想定されるいくつかの地震・津波シナリオについてシミュレーションを行い、これらを入力データベースとした逐次更新型リアルタイム津波リスク予測手法を適用する。沿岸部浸水リスク予測結果をXGIS 上に実装し、可視化することで、津波リスクの見える化を行う。

③ 人口動態把握と予測のための人流デジタルツインの開発

研究代表者

マス エリック(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

越村 俊一(災害ジオインフォマティクス研究分野)

研究の概要

本研究では、主に準リアルタイムで流通する人流データを活用して、平時・災害時に関わらず継続的に人口動態を把握し、災害や大規模イベント等による人口動態の急変(Anomaly)を検出し、災害過程の把握や社会動態の予測・把握を行うためのデジタルツインを新たに開発する。

  2 4つの重点研究領域の研究内容に関連し、災害レジリエンスの向上に貢献する研究

 (1) 災害レジリエンス数量化研究領域

① 道路ネットワークのレジリエンス強化に向けた橋梁の合理的な地震対策決定プロセスの構築

研究代表者

石橋 寛樹(日本大学 工学部 土木工学科)

所内共同研究者

越村 俊一(災害ジオインフォマティクス研究分野)

研究の概要

耐震補強や上部構造の流出を想定した部材の備蓄など、橋梁に関する種々の地震対策の有効性評価およびその意思決定を可能にする手法を構築する。強震動と津波による橋梁の損壊に伴う道路ネットワークの交通機能低下をレジリエンスとして評価し、レジリエンスを指標とすることで合理的な橋梁の地震対策方法を同定する。

② 建築構造物における制振レトロフィットの功罪

研究代表者

木村 祥裕(東北大学大学院工学研究科 都市・建築学専攻)

所内共同研究者

大野 晋(地震工学研究分野)

研究の概要

制振構造は建物の揺れを効果的に低減でき、使用継続性に寄与するため着目されている。しかし、ダンパーを付与すると建物の振動特性が変わるため、地震動との関係によっては天井落下などの被害が生じる恐れがある。本研究では、制振レトロフィットの功罪を分析し、建物の使用継続性を担保する設計法を構築する。

③ 江戸時代と現代の町の豪雨災害リスクと居住空間特性の評価

研究代表者

鈴木 温(名城大学 理工学部社会基盤デザイン工学科)

所内共同研究者

森口 周二(計算安全工学研究分野)

研究の概要

実在する中山間地の町を対象として、豪雨災害リスク評価に特化した現代と過去(江戸時代)のモデルを構築する。これらのモデルを用いたシミュレーションにより豪雨災害リスクを定量化するとともに、都市計画分野の技術を用いて空間特性を分析し、その結果に基づいて現代と過去の居住空間特性と災害リスクの違いを論じる。

④ 降雨流出氾濫解析と簡易型河川監視カメラ画像解析を用いたリアルタイム浸水予測の高度化

研究代表者

橋本 雅和(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

橋本 雅和(災害ジオインフォマティクス研究分野)

研究の概要

豪雨時のリアルタイム浸水予測の高精度化を達成すべく、簡易型河川監視カメラを用いた越水検知と降雨流出解析により、越流量推定と浸水予測を行い、精度を検証すると共にリアルタイムでの運用の課題を抽出する。本研究により全国に約4,400台設置されている監視カメラによる迅速かつ高精度な浸水予測体制が確立される。

(2) ヒューマンレジリエンス研究領域

① 産官学協創による災害発生後の長期間経過時点での持続的な心理支援の検討

研究代表者

門廻 充侍(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

門廻 充侍(津波工学研究分野)

研究の概要

自然災害発生後10 年など長期間経過した場合、それまで継続されてきた医療資源は限定される。本研究では、心理状態の分析結果に基づき心理的支援コンテンツを提供するアプリを用いて、災害発生後長期間経過した被災者への支援を検討する。産官学の協創体制で、発災後の持続的な災害精神医療支援のあり方を思考する。

② 災害レジリエンス構築に資する避難所医療ニーズの数量化

研究代表者

越智 小枝(東京慈恵会医科大学 臨床検査医学講座)

所内共同研究者

江川 新一(災害医療国際協力学分野)

研究の概要

大災害時に人々の健康と地域医療のレジリエンスを保つためには現地の医療ニーズに応じた適切な支援が必要である。本研究では東日本大震災時の南三陸・気仙沼・石巻における医療ニーズを疾患ごとの発生時期、受療回数、処方内容などの数的データに基づいて数量化し、甚大災害時の医療支援のあり方を解析する。

③ 放射線被ばくによる抗酸化能の低下と晩期障害の関係

研究代表者

孫 略(国立研究開発法人産業技術総合研究所 健康医工学研究部門)

所内共同研究者

千田 浩一(災害放射線医学分野)

研究の概要

申請者らは、「放射線被ばくによって⽣体の抗酸化能低下状態が⻑期的に継続する」ことを世界で初めて報告した。本研究では、放射線災害のレジリエンスで問題となる晩期障害と抗酸化能との関係を解析し、①抗酸化能の変化は晩期障害の発症に寄与するか ②⾎液の抗酸化能は晩期障害のバイオマーカーとなるかを明らかにする。

④ 原発事故被災者支援の経験者における特殊災害関連報道に対するレジリエンス調査

研究代表者

照井 稔宏(福島県立医科大学 医学部神経精神医学講座)

所内共同研究者

國井 泰人(災害精神医学分野)

研究の概要

本研究は、福島原発事故後に被災者の心のケアに従事した専門職のウクライナ危機、特に軍事攻撃による原子力発電所への影響に関する報道への心理的反応を把握することが目的である。本研究により、CBRNE 災害を受けての実務を経験した支援者が、後のCBRNE 災害やその惨事報道に対し体得するレジリエンスや脆弱性が明らかになる。

⑤ 染色体異常を指標とした原子力災害時の健康影響におけるレジリエンス

研究代表者

三浦 富智(弘前大学 被ばく医療総合研究所)

所内共同研究者

千田 浩一(災害放射線医学分野)

研究の概要

原子力災害被災地のレジリエンスを実現するためには、放射線の科学的根拠に基づく健康影響に関する情報共有が重要となる。本研究では、浪江町住民及び原子力発電所緊急作業員の染色体異常解析結果と、被災ニホンザルの染色体異常解析結果を比較するとともに、被災自治体と情報共有し、レジリエンス向上への寄与を評価する。

(3) 災害情報キュレーション研究領域

①  復興期の沿岸部空間形成過程の体系化にむけて

研究代表者

井内 加奈子(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

井内 加奈子(レジリエンス計画研究分野)

研究の概要

インドネシア・中部スラウェシ地震の津波被災地に焦点をあて、沿岸部における空間形成過程の体系化にむけた情報の収集・整理・分析を、重要な政策文書や既往文献、報道記事、現地踏査・ヒアリングなどから行う。将来的には、被災地域再建の実証研究に役立つ、復興過程のモニタリング手法と情報整備を行う時間スケールの開発を行いたい。

②  デジタル時代における震災アーカイブのマルチモーダル化の実装と認知科学的評価

研究代表者

齋藤 玲(東北大学 災害科学国際研究所 )

所内共同研究者

齋藤 玲(認知科学研究分野)

研究の概要

デジタル時代における震災アーカイブのマルチモーダル化の実装と認知科学的評価本研究では、デジタル時代の震災伝承・防災教育実践の充実に貢献するべく、人々の複合的防災意識(動機づけ、記憶、感情、考え方など)の向上・変容のために震災アーカイブの有効活用を試みる。具体的には、人工知能技術による震災アーカイブのマルチモーダル化と、マルチモーダル・アーカイブが持つ効果の検証を行う。

③ 地域自然災害アーカイブのためのプラットフォームの構築

研究代表者

小山 真紀(岐阜大学 流域圏科学研究センター)

所内共同研究者

柴山 明寛(災害文化アーカイブ研究分野)

研究の概要

岐阜県(岐阜大)、東北地域(東北大)、熊本県(熊本大)、長野県(信州大)、防災科研の防災研究者が、これまで培ってきた地域災害アーカイブの知見を結集し、自然災害アーカイブの構築で最も負担となっていたシステム構築、運営、維持管理を容易にするための連携・協働が可能なプラットフォームの構築の研究を実施する。

④ 災害時における文化遺産救済を目的とした文化遺産マップの構築および活用の研究

研究代表者

鈴木 比奈子(栗駒山麓ジオパーク推進協議会)

所内共同研究者

蝦名 裕一(災害文化アーカイブ研究分野)

研究の概要

本申請課題は、近年多発する自然災害によって、指定文化財や民間所有の歴史資料といった文化遺産が被災するリスクに対し、東北大学が整備を進める文化遺産データベースを活用し、Web-GIS を用いた文化遺産マップを構築し、災害時における文化遺産の劣化・破壊を事前に予防する手法を考案する。具体的には、東北大学が整備を進める自治体が把握する文化遺産データベースと防災科学技術研究所が配信するJ-SHIS などの地震動予測情報やリアルタイムの災害情報、自治体の提供する洪水ハザードマップなどの情報をWeb-GIS で統合した「文化遺産マップ」を構築し、文化遺産に対するハザードへの曝露状況を可視化する。整備された文化遺産の位置情報から、密度情報を算出し、これらの情報から地域の文化遺産の被災危険度評価を行うことで、災害発生時の文化財の救済ロジスティクスや事前の予防へ寄与する。

(4) 災害レジリエンス共創領域

① 南海トラフ地震臨時情報発表時における地域コミュニティ対応計画作成支援に関する研究

研究代表者

野々村 敦子(香川大学 創造工学部)

所内共同研究者

福島 洋(陸域地震学・火山学研究分野)

研究の概要

本研究では、南海トラフ地震の被害が想定される地域コミュニティにおいて、「南海トラフ地震臨時情報」に対する認知度を高め、コミュニティの防災・減災対策に活かすために有効な取り組みについて検討する。さらに、住民主体の「南海トラフ地震臨時情報発表時における対応計画」作成支援の方法についても検討する。

② Web GISを活用した学校教員向けリスクコミュニケーション手法の高度化 〜学区の災害リスクの理解に基づく実践的な避難計画の社会実装に向けて〜

研究代表者

桜井 愛子(東洋英和女学院大学 国際社会学部国際社会学科/東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

佐藤 健(防災教育実践学分野)

研究の概要

本研究は地理院地図、重ねるハザードマップ等のWeb GISを活用した学校教員向けのリスクコミュニケーションモデルの高度化を図り、同モデルの実践を通じて学校が学区の災害リスクを踏まえ災害時に適切なタイミングでの安全な避難が行われるための「避難確保計画」を策定し学校防災マニュアルに統合されること目指す。

③ 千島海溝の巨大地震津波対策を支える災害総合知の創出

研究代表者

高橋 浩晃(北海道大学 大学院理学研究院)

所内共同研究者

福島 洋(陸域地震学・火山学研究分野)

研究の概要

国は千島海溝で超巨大地震発生が切迫と評価し数万人以上の死者を想定しており、自治体ではハード・ソフト対策の検討が始まっている。東北被災地や南海トラフでのハザード・リスク研究で蓄積された知見を活用可能な総合知として統合し、北海道のレジリエントな次世代まちづくりに生かすためのアクションリサーチを展開する。

④ 新型コロナウイルス感染症クラスター再発防止対策:CO2濃度を指標とした換気調査 ~特に保育施設、介護施設について~

研究代表者

喜多村 紘子(産業医科大学 産業医実務研修センター)

所内共同研究者

千田 浩一(災害放射線医学分野)

研究の概要

新型コロナウイルスの感染経路としてエアロゾル感染が認められ、換気の重要性が再認識されている。本研究ではCO2 濃度を指標として、仙台市内のクラスターが発生した特に保育施設・介護施設を対象に換気調査を行い、クラスター再発防止対策を提案する。得られた知見はWeb 等で発信し、災害レジリエンスの向上に繋げる。

⑤ 住民間の「知」の循環による「地域脱炭素」推進過程での総合的レジリエンス向上の試み:長崎県五島列島を事例に

研究代表者

甲斐 智大(岐阜大学 地域科学部 地域政策学科 地域政策講座)

所内共同研究者

原 裕太(2030国際防災アジェンダ推進オフィス)

研究の概要

本研究は2050 年以降の自然共生社会を見据え、カーボンニュートラルを実現する過程での地域の災害レジリエンスに注目する。とくに域内での電力自給化と外部人材受入れを始めた先進地、長崎県・五島列島を対象として、新・旧住民の意思疎通を通じた「知」の循環による総合的なレジリエンス向上の可能性と課題に焦点を当てる。

⑥ 「仙台防災枠組」進捗レビューの先駆的試み:仙台市との協働・実践を通じて

研究代表者

原 裕太(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

原 裕太(2030国際防災アジェンダ推進オフィス)

研究の概要

現在、仙台市と共同で「仙台防災枠組」のレビューに必要な災害被害情報の収集を行っている。本研究では、収集情報の分析と担当者への聞取りから、災害被害情報の収集過程の課題を明らかにする。同時に、GIS により過去の被災状況の時空間傾向を町丁字単位で分析し、キーとなる地域の把握を試みる。

⑦ 気象災害時における時空間周遊行動動態に基づく災害リスク評価

研究代表者

Sunkyung Choi(東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系)

所内共同研究者

奥村 誠(レジリエンス計画研究分野)

研究の概要

観光危機管理の観点から、大都市観光地における災害リスク評価を目的として、観光客の時空間周遊行動を通常時と災害時の別に、人の位置情報データ、気象データ、ハザードマップなど複数のデータベースを用いて多角的に分類し、滞留状況の違いなど観光客の動態の特徴を明らかにする。

  3 人流データを活用した社会動態の解明に関する研究

① 長期化したCOVID-19パンデミックによる心理的影響に関する地域特性の検討

研究代表者

奥山 純子(東北大学 病院肢体不自由リハビリテーション科)

所内共同研究者

門廻 充侍(津波工学研究分野)

研究の概要

これまで継続的に行ってきた5 回のWeb 調査結果に、今回の調査を加えることで、長期化したCOVID-19 感染症流行下におけるメンタルヘルスの縦断研究を行う。得られたデータについて、地域別のメンタルヘルスと人流データによる地域特性の関連を検討し、地域特性に即したメンタルヘルス改善の提案を目指す。

② 人流データの時系列変動分解に基づく災害レジリエンス情報の検出と比較

研究代表者

山口 裕通(金沢大学 理工研究域 地球社会基盤学系)

所内共同研究者

奥村 誠(レジリエンス計画研究分野)

研究の概要

本研究では、大規模な時空間データである人流データのパターン分解によって、突発的な変化を検出・評価するアプローチの開発・改良を行う。そして、近年に日本で発生した移動行動の突発的な減少事象(災害ダメージ)とその回復過程を定量的に明らかにし、豪雨・地震等を含む、複数の災害事象の間での比較を行う。

③ モバイル空間統計を活用した集客施設別の混雑と遊休に関する分析

研究代表者

塚井 誠人(広島大学大学院 先進理工系科学研究科)

所内共同研究者

奥村 誠(レジリエンス計画研究分野)

研究の概要

COVID-19 の感染拡大により、地域の集客施設の一部では遊休が、またそのほかの一部では混雑が生じている。本研究は、モバイル空間統計が示す人流の時空間分布と集客施設の空間分布を効果的に比較する手法を開発して、集客施設別の遊休・混雑の特徴を明らかにしたうえで、コロナ後の社会に必要な地域政策を検討する。

『災害レジリエンス共創研究プロジェクト』

 

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