研究・実践

2023年度 災害レジリエンス共創研究プロジェクト 採択課題

2023年度 災害レジリエンス共創研究プロジェクトとして採択された課題を掲載いたします。

  1 災害デジタルツインの開発に関連する研究

① 日本海溝型地震に伴う津波のリアルタイムリスク評価~八戸市を対象としたレジリエンス強化のための事例検証~

研究代表者

高瀬 慎介(八戸工業大学 大学院工学研究科)

所内共同研究者

越村 俊一(災害ジオインフォマティクス研究分野)

研究の概要

本研究では八戸市を対象に、近い将来襲来が想定されるいくつかの地震・津波シナリオについてシミュレーションを行い、これらを入力データベースとした逐次更新型リアルタイム津波リスク予測手法を適用する。沿岸部浸水リスク予測結果をGIS などの地理空間情報システムに実装し、可視化することで、津波リスクの見える化を行う。

② 災害デジタルツインにおけるデジタルデータ・アーカイブシステムの設計と試作

研究代表者

近貞 直孝(防災科学技術研究所 地震津波防災研究部門)

所内共同研究者

越村 俊一(災害ジオインフォマティクス研究分野)

研究の概要

災害デジタルツインにおいては、物理空間から仮想空間にコピーされたデジタルデータをその後の解析で利用可能な形で整備する必要がある。しかし、既存の多くの公開されているデジタルデータは人間が利用することを第一に想定しており、シミュレーションプログラムが直接利用することや、横断的な検索が想定されていない場合が少なくない。そこで、本研究では、災害デジタルツインにおけるデジタルデータ・アーカイブシステムの構築に向けて、津波情報を一例としてデジタルデータ・アーカイブシステムの設計と論文やそれに用いられた観測や実験結果を対象に試作を行う。

③ 災害デジタルツインのための人口暴露把握と予測アルゴリズムの開発

研究代表者

マス エリック(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

越村 俊一(災害ジオインフォマティクス研究分野)

研究の概要

本研究では、人流データを用いて災害時の人口曝露を把握するための新たなアルゴリズムを開発する。人口の空間的・時間的分布の急変(異常)を検知し、準リアルタイムで社会動態を予測することを目指す。

④ GPSデータとモバイル空間統計に基づく個人レベルの合成人流データの構築

研究代表者

永田 彰平(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

越村 俊一(災害ジオインフォマティクス研究分野)

研究の概要

本研究では、GPS データで得られる個人の移動軌跡とモバイル空間統計データで得られる時間帯別の滞留人口を合成し、仙台市に居住する全成人人口の1 日の移動軌跡データを構築する。本研究で構築する大規模な合成移動軌跡データは、災害の影響を評価するための、人流を用いたシミュレーションへの活用が期待できる。

  2 4つの重点研究領域の研究内容に関連し、災害レジリエンスの向上に貢献する研究

 (1) 災害レジリエンス数量化研究領域

① 道路ネットワークのレジリエンス強化に向けた橋梁の合理的な地震対策決定プロセスの構築

研究代表者

石橋 寛樹(日本大学 工学部 土木工学科)

所内共同研究者

越村 俊一(災害ジオインフォマティクス研究分野)

研究の概要

地震動と津波を受ける橋梁では、橋脚の損傷や桁の流出等、起こり得る破壊形態は個々で異なる。本研究では、将来、地震動と津波による被害が懸念される橋梁群を対象に、確率論に基づく各橋梁の破壊形態推定手法、および、道路ネットワークとしての機能回復力(レジリエンス)まで考慮した最適な地震対策決定手法を構築する。

② 近代と現代の町の豪雨災害リスクと居住空間特性の評価

研究代表者

鈴木 温(名城大学 理工学部社会基盤デザイン工学科)

所内共同研究者

森口 周二(計算安全工学研究分野)

研究の概要

実在する中山間地の町を対象として、豪雨災害リスク評価に特化した現代と過去のモデルを構築する。これらのモデルを用いたシミュレーションにより豪雨災害リスクを定量化するとともに、都市計画分野の技術を用いて空間特性を分析し、過去から現代への町の変化がもたらした豪雨災害に対する耐性の変化を論じる。

③ 災害レジリエンス構築に資する被災地医薬品ニーズの定量化

研究代表者

越智 小枝(東京慈恵会医科大学 臨床検査医学講座)

所内共同研究者

江川 新一(災害医療国際協力学分野)

研究の概要

大災害時に人々の健康と地域医療のレジリエンスを保つためには現地の医療ニーズに応じた適切な支援が必要である。本研究では東日本大震災時の南三陸・気仙沼・石巻における医療ニーズを疾患ごとの発生時期、受療回数、処方内容などの数的データに基づいて数量化し、甚大災害時の医療支援のあり方を解析する。

④ 震災時避難所空間構造物の構造被害リスクの定量的評価スキーム

研究代表者

木村  祥裕(東北大学大学院 工学研究科 都市・建築学専攻)

所内共同研究者

大野 晋(地震工学研究分野)

研究の概要

東日本大震災で、鉄骨置屋根形式の体育館で構造被害が生じたために避難所としての活用ができない事例があったため、耐震補強等の適切な対策が求められている。本研究では、大地震後でも使用継続可能とするための建築構造物の最適な補強方法を、地震動との相互作用を考慮して定量的に評価するスキームを提案する。

(2) ヒューマンレジリエンス研究領域

① 災害シミュレーションを用いた行動実験パラダイムの開発を通した災害後協力とウェルビーングの実験的検討

研究代表者

今田 大貴(高知工科大学 経済・マネジメント学群)

所内共同研究者

齋藤 玲(認知科学研究分野)

研究の概要

災害状況における協力は、被災者のウェルビーングおよびレジリエンスの向上に不可欠である。本研究は人を対象とした実験において災害をシミュレートすることで、災害後協力・被災者のウェルビーングに関する心理学的メカニズムの解明・効果的な予防的介入法の同定を可能にする新たな学際的な実験パラダイムの開発を目指す。

② 放射線災害被災者に対する無散瞳白内障検査技術の開発とその検証

研究代表者

盛武 敬(量子科学技術研究開発機構 放射線医学研究所 放射線規制科学研究部)

所内共同研究者

千田 浩一(災害放射線医学分野)

研究の概要

放射線災害の晩期影響である放射線白内障は被災後20 年以上を経て発症するとされる。本研究では放射線白内障を発症する以前の段階での微少なVacuole を定量的に診断するため、無散瞳状態での徹照カメラを用いた白内障検査技術を確立し、多くの被災住民を短時間のうちに診断する世界初の技術開発とその検証を行う。

③ 染色体異常を指標とした原子力災害時の健康影響におけるレジリエンス

研究代表者

三浦 富智(弘前大学 被ばく医療総合研究所)

所内共同研究者

鈴木 正敏(災害放射線医学分野)

研究の概要

原子力災害被災地のレジリエンスを実現するためには、放射線の科学的根拠に基づく健康影響に関する情報共有が重要となる。本研究では、浪江町住民、東京電力原子力発電所緊急作業員、高自然放射線地域住民及び被災ニホンザルの染色体異常解析結果を被災自治体と情報共有し、レジリエンス向上への寄与を評価する。

④ 防災意識と関連するパーソナリティの探索:地域愛着性に着目して

研究代表者

三橋 勇太(石巻専修大学 経営学部)

所内共同研究者

齋藤 玲(認知科学研究分野)

研究の概要

社会を構成する個々人の防災意識を高めるためには、防災意識と関連するパーソナリティを明らかにし、その関連要因を高めることが有効に作用するに違いない。本研究では、防災意識と関連するパーソナリティを探索するために、その一つとして地域愛着性に着目し、心理スケールを用いた調査を実施する。

(3) 災害情報キュレーション研究領域

①  地域自然災害アーカイブのためのプラットフォームの構築

研究代表者

小山 真紀(岐阜大学 流域圏科学研究センター)

所内共同研究者

柴山 明寛(災害文化アーカイブ研究分野)

研究の概要

岐阜県(岐阜大)、東北地域(東北大・栗駒山麓ジオパーク)、熊本県(熊本大)、長野県(信州大)、防災科研の防災研究者が、これまで培ってきた地域災害アーカイブの知見を結集し、自然災害アーカイブで最も負担となっていたシステム構築、運営、維持管理を容易にするための連携・協働が可能なプラットフォーム構築と実装の研究を行う。

②  震災アーカイブ学習のRX(リサーチトランスフォーメーション)―検索システムの追加機能の開発、学習効果の検証とメカニズムの解明―

研究代表者

齋藤 玲(東北大学 災害科学国際研究所 )

所内共同研究者

齋藤 玲(認知科学研究分野)

研究の概要

本研究は、自然言語処理学(広義の人工知能学)並びに認知科学の研究者が集い、震災アーカイブ学習に関する新たな研究潮流を共創し、震災アーカイブの利活用を現実的に推進することを目指す。そのために、Ⅰ)検索システムの追加機能の実装、Ⅱ)震災アーカイブ・震災関連教材が持つ学習効果の検証とメカニズムの解明を行う。

③ 災害・防災情報検索リテラシーのためのワークショップの開発と効果検証

研究代表者

後藤 心平(広島経済大学 メディアビジネス学部 メディアビジネス学科)

所内共同研究者

齋藤 玲(認知科学研究分野)

研究の概要

災害・防災に関する情報を読み解く前段階として、人々が当該情報に接近する動機づけを持ち、検索できる力は、生きる力として不可欠である。本研究では、災害・防災情報を検索する知識・技能(災害・防災情報検索リテラシー)について、実態把握を大学生対象に行い、ワークショップを企画、実施し、効果検証を行う。

④ 震災アーカイブとしての災害・防災絵本の分析と翻訳を通した経験と教訓の国際発信

研究代表者

マリ エリザベス(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

マリ エリザベス(国際研究推進オフィス)

研究の概要

震災・防災絵本は、震災アーカイブとして、国境を越えて、次世代に出来事を伝え、防災意識を高めることに役立つ。しかし、そこには慣習や文化等の違いがあり、それを乗り越えなければならない。本研究では、日本語で出版された震災・防災絵本を翻訳するとともに、そのときの注意点・工夫点を冊子にまとめ、国際発信する。

⑤ 災害時における文化遺産救済を目的とした文化遺産マップの構築および活用の研究

研究代表者

吉森 和城(防災科学技術研究所 災害情報研究部門)

所内共同研究者

蝦名 裕一(災害文化アーカイブ研究分野)

研究の概要

自然災害によって、文化財や民間所有の歴史資料といった文化遺産が被災するリスクに対し、東北大学が整備する文化遺産データベースと防災科学技術研究所が提供するリアルタイムの災害情報や自治体が提供するハザードマップなどの防災情報をWeb-GIS で統合した「文化遺産マップ」を構築し、文化遺産に対するハザードへの曝露状況を可視化し、災害時における文化遺産の劣化・破壊を事前に予防する手法を考案する。

(4) 災害レジリエンス共創領域

① 原発事故でサクラ樹皮に付着したセシウム汚染の回復

研究代表者

杉浦 広幸(福島学院大学短期大学部)

所内共同研究者

千田 浩一(災害放射線医学分野)

研究の概要

サクラ樹皮を高濃度に汚染している放射性セシウムの形態を明らかにする。そして、樹皮に存在するセシウム粒子は、セシウム塩の結晶であることを証明する。それにより、福島原発事故による森林の樹皮汚染は、時間がかかるながらも流亡することを証明する。

② Web GISを活用した学校教員向けリスクコミュニケーション手法の高度化〜学区の災害リスクの理解に基づく実践的な避難計画の社会実装に向けて〜

研究代表者

桜井 愛子(東洋英和女学院大学 国際社会学部国際社会学科/東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

佐藤 健(防災教育実践学分野)

研究の概要

本研究は地理院地図、重ねるハザードマップ等のWeb GISを活用した学校教員向け研修パッケージを開発し、学校が学区の災害リスクを踏まえ災害時に適切なタイミングでの安全な避難が行われるための「避難確保計画」を策定し、これらが学校防災マニュアルに統合され、避難訓練や防災教育との連携が図られることを通じて、学校教員向けリスクコミュニケーションモデルの高度化が図られることを目指す。

③ 仙台防災枠組におけるグローバル指標の更なる社会実装に向けて:インドネシア・アチェを事例に

研究代表者

佐々木 大輔(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

佐々木 大輔(2030国際防災アジェンダ推進オフィス)

研究の概要

本研究は、仙台防災枠組の進捗評価の際等に用いられるグローバル指標の更なる社会実装に貢献するべく、開発途上国のパイロット事例としてインドネシア・アチェを選定し、申請者らが実施した仙台市での既往研究等を参考にしながら、地方レベルでグローバル指標の社会実装を図る際の課題を明らかにして政策提言に繋げる。

④ セクシュアルマイノリティの災害レジリエンス向上のための基礎研究

研究代表者

北村 美和子(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

北村 美和子(国際研究推進オフィス)

研究の概要

本研究では、社会的弱者の中でもとりわけ実態把握が遅れているセクシュアルマイノリティ(セクマイ)について、彼らの現状と社会的ぜい弱性、そこに紐づく災害時のニーズについて調査を実施し、災害時の彼らが必要とする支援や配慮を明らかにすることで、彼らの災害へのレジリエンスを高める方法を検討する。

⑤ 「人はなぜ防災行動を取らないのか?」仙台市における災害時に脆弱性を持つ人口グループを対象にした事例研究

研究代表者

中鉢 奈津子(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

中鉢 奈津子(広報室)

研究の概要

仙台市宮城野区福住町地区を中心に、防災関係者への聞き取り調査および住民への半構造化インタビューを行い、「人はなぜ防災行動を取らない・取れないのか」を明らかにする。特に、災害時に脆弱性を持つ人口グループを対象にする。得られた知見から、市民の防災行動変容を促す要素を抽出する。

⑥ 災害時における大都市の時空間避難行動の分析

研究代表者

チェ ソンキョン(東京工業大学 環境・社会理工学院融合理工学系)

所内共同研究者

奥村 誠(レジリエンス計画研究分野)

研究の概要

本研究では、災害時における大都市の居住者と観光客の時空間的な避難行動について、複数の都市を対象として災害種類別に横断的な分析を行う。避難行動に関するアンケート調査、また時空間避難行動と災害対応との関係性や類似性を分析するツール開発により、パターン分類や比較分析を実施する。

⑦ 五島列島におけるキリシタン集落の形成・立地と災害リスク評価に関する研究

研究代表者

原 裕太(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

原 裕太(2030国際防災アジェンダ推進オフィス)

研究の概要

長崎県五島列島を対象に、キリシタン集落の立地と災害リスクの関係性を定量・定性両面から明らかにする。さらに分析結果を地域と共有し、住民や教会等と協働して高リスク地域のレジリエンス向上を目指す。当研究は、2022 年度レジリエンス共創研究プロジェクトで実施した研究で得られた成果から派生して展開するものである。

⑧ GNSSを活用した新しい地震、津波発生予測の実現可能性の研究

研究代表者

小野 裕一(東北大学 災害科学国際研究所)

所内共同研究者

小野 裕一(2030国際防災アジェンダ推進オフィス)

研究の概要

大地震には地磁気異常、赤外線、電離層の活動の変化など複数の前兆現象の発生が知られており、一部の現象は地震発生と統計的に有意な相関があることが証明されている。本研究ではGNSS のデータを活用し、電離層の活動の変化を捉え、短期的な地震予測の実現可能性と予測精度向上の方法について研究するものである。さらに、精度の高い地震の予測が可能となれば、それに続く津波予測、および避難行動など防災力の強化が見込まれ、社会に大きく貢献するものとなる。

  3 人流データを活用した社会動態の解明に関する研究

① 人流データの時系列変動分解に基づく災害レジリエンス情報の検出と比較

研究代表者

山口 裕通(金沢大学 理工研究域 地球社会基盤学系)

所内共同研究者

奥村 誠(レジリエンス計画研究分野)

研究の概要

本研究では、大規模な時空間データである人流データのパターン分解によって、突発的な変化を検出・評価するアプローチの開発・改良を行う。そして、近年に日本で発生した移動行動の突発的な減少事象(災害ダメージ)とその回復過程を定量的に明らかにし、豪雨・地震等を含む、複数の災害事象の間での比較を行う。

② モバイル空間統計に基づく集客施設別の混雑と遊休の地域間比較

研究代表者

塚井 誠人(広島大学大学院 先進理工系科学研究科)

所内共同研究者

奥村 誠(レジリエンス計画研究分野)

研究の概要

本研究は、昨年度の本申請で開発したモバイル空間統計が示す人流の時空間分布と集客施設の空間分布を効果的に比較する手法を多地域に適用して地域間比較を行う。同手法では集客施設別の遊休・混雑の傾向を分析して都市政策の有効性をミクロレベルで検証できる。本年度は、主に地域間の集客施設の混雑特性を比較する。

『災害レジリエンス共創研究プロジェクト』

 

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