平成28年度 共同研究助成として採択された課題を掲載いたします。
高橋 智幸(関西大学 社会安全学部)
山下 啓(地震津波リスク評価(東京海上日動)寄附研究部門)
国家的な戦略プロジェクトであるHPCIプロジェクト(平成27年度終了)ではプロトタイプの津波統合モデルを開発し、東日本大震災で監視・観測された複合的で複雑な津波挙動ついて世界で初めて再現を試みることができた。今後さらに機能拡張や解析精度を向上させるため、以下に示す課題整理や最新の情報(数値解析や検証の水理実験)などを検討し、向上に向けて共有させる。
浅井 光輝(九州大学 大学院工学研究院)
寺田 賢二郎(地域・都市再生研究部門 地域安全工学研究分野)
南海トラフ地震が発生時、東日本大震災時と同程度以上の津波が発生する危険性が高く、ハード防災(構造物で守る)だけでは人命を守ることは困難であり、被災者ゼロのためには有効なソフト防災(防災教育等)が重要なキーとなる。また2011年以降、数値解析により精緻に津波被害を予測するため、特に陸地への津波遡上現象を3次元問題として解く研究が推進されており、スパコンを使えば1m程度間隔以下で間隔での計算が可能となりつつある。これまで、申請者もマルチスケール津波解析手法を構築することで高詳細な津波遡上解析を可能とし、またひとの視線から立体視する可視化技術を発展させることで、ヘッドマウントディスプレイによるウェアラブル立体視と歩行コントローラを用いたリアルタイム津波避難体験シミュレータを開発してきた。本研究では、東北大学・寺田賢二郎教授らが構築してきたマルチフィジックス解析(流体構造連成解析)結果も同体験シミュレータにて体験できるように機能拡張する。また同時に、東北大学・災害科学国際研究所に設置されている多次元統合可視化システムIMIDeS による大型スクリーンでの立体視と上記の歩行コントローラと併用した体験可視化システムへと発展させる。これまでの体験シミュレータは体験者個人のみが閲覧できるシステムであったが、大型スクリーンを通して複数の方が同時に同じ可視化情報を共有できる利点を活かし、今後の津波避難計画作成の際の議論へと応用を図る。
釣木澤 尚実(国立病院機構埼玉病院 呼吸器内科)
栗山 進一(災害医学研究部門 災害公衆衛生学分野)
2011年3月11日、東日本大震災が発生し、本震災に係る応急仮設住宅が約11万戸建設された。共同研究者の過去の研究結果から、特に応急仮設住宅室内において真菌の異常発育が明らかとなっている。応急仮設住宅の構造上、気密性や通気性に問題を抱えることが多くの研究報告から明らかになっており、このため生じる結露が真菌やダニの発育の重要な要因の一つとなっている。応急仮設住宅では真菌やダニが異常増殖していることが予測され、アレルギー疾患の発症素因がある住民では気管支喘息や過敏性肺炎などのアレルギー疾患を発症しうる可能性があること、すでにアレルギー疾患を発症している症例では真菌やダニの持続的な抗原曝露により呼吸器症状が重症化する可能性があることから、応急仮設住宅に在住する住民に対してアレルギー疾患の疫学調査を行うことは重要である。また応急仮設住宅室内の環境整備指導を行い、環境を改善することでアレルギー疾患の重症化を回避することや将来のアレルギー疾患発症を未然に防ぐことが可能になる。
申請者らは2014年から宮城県石巻市における応急仮設住宅に在住する15歳以上の住民を対象として、呼吸器アレルギー集団検診を実施している。医師による気管支喘息の有病率、質問票による期間有症率は約22%であり、その多くは震災後、避難所あるいは仮設住宅入居後に喘息を発症、あるいはすでに喘息のある住民の喘息症状が増悪していることが明らかとなった。血清中のAspergillus fumigatus陽性率は10%未満であったが、ダニ特異的IgE抗体陽性率は医師の診断による喘息症例の36.0%であり、非喘息住民の20.3%と比較して有意に高値であった。この結果から真菌の増加に伴い、ダニが増殖し、ダニアレルギーの感作が生じている可能性が示唆されたが、詳しくは立証できていない。本研究では石巻市の応急仮設住宅あるいは一般住宅在住の住民を対象として、呼吸器内科専門医による集団検診の実施を継続し、環境により喘息症状が増悪、あるいは発症するのか、それは環境整備指導などにより改善されるのかを経年的に追跡し、喘息を含めたアレルギー疾患の発症・増悪の因果関係を解明すること、環境整備指導方法の確立により住民の環境を改善し、喘息の症状を改善、発症を予防することを目的とする。さらに、今後の大規模災害発生時における対策として政策提言し、わが国の減災の在り方に関する情報発信を行う。
坪内 暁子(順天堂大学 医学研究科)
佐藤 健(情報管理・社会連携部門 災害復興実践学分野)
本研究課題は、都市型災害対策として、震度6強以上の地震等大規模災害発生時の避難や避難所生活でのリスク低減を目指した、「地域を知る」ための実態的研究であり、地域住民の少子・高齢者化・多様化・グローバル化並びに地域のIT化に対する対策を検討する。新宿区指定避難所の成城学校運営管理協議会との連携と、先行研究のメンバー中心に昨年3月に発足させた災害対策について「伴に」考える研究会との協力のもとで、災害時に手一杯になる医療・保健・福祉の機能を補う避難所等の仕組みづくりを念頭に、町会加入者並びに学校生徒等に向けた調査を実施する。その上で、地域や住民の多様性や個々の特徴の把握・分析を通して、例えば、リスク・マップを作成する等、特に人に関する見える化を試み、仕組みづくりのプライオリティを明確にする。大都市では、住民の多様化・グローバル化と並んで、避難所運営者の高齢化によって、地方都市以上に地域連携や災害対策づくりは難しい。熊本地震発生時の避難所の混乱とは性格を異にし、また同じく東京であっても世田谷区・練馬区(都内人口1 位・2 位)のような住宅地域とは比較にならない人の動きに関するリスクが予想される。研究対象地域は、国内外の観光客が多い新宿歌舞伎町から徒歩3キロ圏内に位置し、大型商業施設等の利用客、あるいは、近隣の大学病院等大型医療機関への通院患者等の住民以外の避難者が、一時避難場所経由で、最悪数千人規模で流れ込んでくる危険性が非常に高い地域である。また夜間被災した場合は、避難所となる学校関係者等の支援は期待できないため、もともと身体的リスクの高い高齢者中心の避難所運営となが、昼・夜間ともに、パニックや暴動にも発展することは是が非でも回避しなくてはいけない。従って、この避難時や避難者受入れ時の混乱を回避する仕組みの研究は急務といえる。本課題では、調査結果を参考に、健常者に限らず、慢性疾患患者・乳幼児・妊産婦・高齢者等身体的弱者や、障害者等社会的擁護が必要な弱者、あるいは言語等外国人が抱える問題やペット同伴避難にも目を向け情報弱者対策も踏まえて、住民以外のどの範囲までを受入れるか、どういう形で受入れるか、それ以外の避難者をどう他の避難所等に誘導するか、そのために何を準備しておくべき等を考える。地域や住民の個々の特徴を把握することで、プライオリティを明確にして、災害発生時の医療・保健・福祉支援体制としての仕組みづくりにつなげていく。
松下 正和(姫路大学 教育学部)
天野 真志(人間・社会対応研究部門 歴史資料保存研究分野)
津波や風水害の影響により、さまざまな地域社会において所在する紙媒体歴史資料が大量に水損・汚損する事態が発生している。その過程で、カビや文化財害虫などによる虫菌害被害が多発している。特に物理的劣化としての虫菌害による裂損や破損などの食害、化学的劣化としてのカビによる色素沈着といった変退色被害や悪臭被害が深刻であり、発災直後の迅速かつ適切な応急処置方法や管理方法を確立・周知する必要がある。
そこで、本研究では、水損した紙製歴史資料に生じた物理的・化学的劣化の要因分析、応急処置と劣化抑制のための恒常的な保存方法を検証するとともに、その簡易的かつ安価な方式の確立を目指し、地域社会を構成する個人・団体の存在証明としての記録の保護を進める。
田中 聡(常葉大学 大学院環境防災研究科)
佐藤 翔輔(情報管理・社会連携部門(情報管理・社会連携部門 災害アーカイブ研究分野)
本研究では、従来の紙媒体を中心としたアナログ方式とデジタル方式を併用し、双方のメリットを生かした災害エスノグラフィー・データのアーカイブ構築法を検討することを目的とする。
申請者らは、仙台市や名取市をはじめとした東日本大震災の被災地において災害エスノグラフィーの手法を用いた被災者の生活再建プロセスについて調査・研究をおこなってきた。これら研究成果は、数々の研究論文として発表するとともに、映像、トランスクリプト、地図などを連動させたデータベースを構築してきた。さらに同じデータを用いて、トランスクリプトを編集し、読み物として記録冊子を作成している。
災害エスノグラフィー・データベースでは、インタビュー映像を中心としているが、映像はあまり編集せず、そのトランスクリプトやメタデータとして付与されたキーワードなどで映像を検索する。そのため検索は容易であるが、目的の映像にたどり着くには困難がともなう。一方、記録冊子は、編集時にその内容を話のまとまりごとに構造化するため、必要な情報がコンパクトにまとまっているものの、情報の追加や修正、検索性はきわめて悪い。また、被災者へのインタビューを中心とした災害エスノグラフィーでは、語られた内容の背景や出来事の時系列関係など、その内容を正しく理解するためには多くの補足情報が必要となり、記録冊子では編集時に盛り込む内容のすべてを決定する必要がある。
そこでこれらデジタル方式とアナログ方式のアーカイブの構築過程を共通化することによって、双方のメリットを生かした、相互に連携するシステムの構築が可能になると考えられる。
本研究では、同じインタビュー・データから作成されている東日本大震災の災害エスノグラフィー・データベースと記録冊子を事例として用い、アナログとデジタルが連携したアーカイブの構築を目指す。
奥村 弘(神戸大学 大学院人文学研究科)
蝦名 裕一(人間・社会対応研究部門 災害文化研究分野)
本研究では、岩手県沿岸部において東日本大震災によって被災した近世・近代文書群や東日本大震災後に発見された近現代文書群について、①デジタルカメラ撮影によるデータベースの作成、③史料の解読・分析による災害研究を実践する。これにあたり、日本近世史・近代史の研究者や保存修復の専門家および地震研究者が連携し、被災史料および未整理文書群に対する適切な保存・整理方法の考案と実践する。特に1933年に発生した昭和三陸地震津波について、近現代史研究者およびプレート境界地震研究者の連携により、多量かつ多様な近現代史料から実施する災害研究として、史料群の特性を最大限に活用できる情報整理および研究分析の手法を考案・実践していく。
山尾 敏孝(熊本大学 大学院先端科学研究部)
柴山 明寛(情報管理・社会連携部門 災害アーカイブ研究分野)
2016年に発生した熊本地震では、多くの犠牲者を出し、甚大なる被害をもたらした。今現在においても復旧活動が続き、被災者の安定した生活が戻っていない状況が続いている。本地震では、前震時と本震時の様々な映像記録が残されている特徴があることと、直下型地震の重要な記録が残されていることなどの特徴がある。本震災記録を後世に伝え残すことが今後の防災・減災対策に大きな役割を果たすことは明白である。
そこで、本研究では、現在数多く構築されている東日本大震災デジタルアーカイブをお手本としながら、熊本地震の独自の震災アーカイブの構築を目指すとともに、今後の防災・減災活動に資するための震災記録の利活用方法について研究を行う。
目黒 公郎(東京大学 生産技術研究所)
村尾 修(地域・都市再生研究部門 国際防災戦略研究分野)
「被災」という社会的な負の遺産の上で、これまでに災害科学に関する多くの研究が蓄積されてきた。これらの知見は様々な分野において生かされ、その後の災害による被害軽減のために貢献してきたと言えよう。21世紀を迎えた現在、阪神・淡路大震災を経験した20世紀末とは比較にならないほど、情報通信技術は高度化し、空間情報基盤も整備されている。しかしながら、災害科学に関する知見がこうした情報通信技術を通じて、地域社会における減災のために活かされているかと言うと、まだまだ検討の余地がある。本研究では、都市防災および復興に関する研究を様々な分野で行っている研究者達が蓄積してきた空間情報が、どのように地域におけるリスク・コミュニケーション・ツールとしての活用できるのかを検討し、災害科学国際研究所の「多次元統合可視化システム」を用いた地域再創生学に資するための教育用コンテンツとして加工・制作することを目的とする。
藤岡 達也(滋賀大学 教育学部)
佐藤 健(情報管理・社会連携部門 災害復興実践学分野)
国内外でのネットワークの構築、学際研究、人材育成の推進を図る防災教育国際協働センターのこれまでの蓄積をもとに、福島県教育委員会及び教育事務所と連携し、震災発生後の5年間の教育行政による学校防災を総括し、今後の復興教育、防災教育のための人材育成を図る。福島県では2011年東北地方太平洋沖地震により、大津波、原子力発電所事故も生じた。同年には、新潟・福島豪雨により大規模な土砂災害も発生し、同県には噴火警戒レベルが運用されている火山も存在する。国内でも2014年には広島土砂災害、御嶽山の水蒸気爆発等が発生し、多くの犠牲者が生じた。以上を踏まえ、同県での教員研修、副読本の開発の内容・方法を分析・考察し、今後の防災教育の在り方を明確にする。
呉 修一(富山県立大学 工学部)
森口 周二(地域・都市再生研究部門 地域安全工学研究分野)
豪雨災害は毎年のように発生しており、近年ではこれまでに発生頻度が低かった東北や北海道などでも豪雨被害が発生している。このような予測困難な豪雨災害のリスクを低減するためには、各分野の研究の高度化と深化だけでなく、現状における発災前後の情報や対応の分析が不可欠である。本研究では、豪雨災害において重要な要因となる河川氾濫および土砂災害の被害を中心として、2016年台風10号および2015年の関東・東北豪雨災害の宮城・岩手県での被害を分析し、現地調査で得られた知見も踏まえて発災前後の行政対応や災害情報の発信状況と実被害との関係を明らかにする。また、本研究の成果に基づき、発災前後の対応や有効な災害情報の発信のための知見を整理することで、有効なタイムラインの策定支援やわかりやすい情報発信方法の提案等を行う。
前田 ひとみ(熊本大学 生命科学研究部)
児玉 栄一(災害医学研究部門 災害感染症学分野)
直下型地震の対策並びに医療体制の整備に資する基礎資料を得るために、熊本地震による施設管理を含めた医療設備の被害、震災に伴う診療体制や支援体制への影響の2点を調査し、その結果を海溝型地震の東日本大震災の状況と比較、検討することによって直下型地震による医療機関の被害状況の特徴と診療体制の課題を明らかにする。これらを踏まえて、今後発災が危惧されている首都直下型地震などの巨大災害にも耐えうる診療体制の構築を目指す。
三辻 和弥(山形大学 地域教育文化学部)
大野 晋(災害リスク研究部門 地域地震災害研究分野)
東に蔵王連峰、西に出羽丘陵に囲まれた山形盆地は東西の工学的基盤が地表に近い地域と、盆地中心部の軟弱な地層が厚く堆積する沖積平野部との境界が曖昧で、地震時の地盤振動特性が狭い範囲で急激に変化する可能性がある。山形盆地は西縁に、政府の地震調査推進本部でも評価されている活断層が存在しており、耐震対策が進んでいるとは言えない地域にあって地震リスクは決して低くはない。そこで、本研究では、山形盆地各所において常時微動観測を面的に展開し、山形盆地の地盤振動特性を評価することを目的とする。表層地盤の振動特性の違いを面的に評価するほか、西側及び東側の盆地端部において工学的基盤が傾斜するなどの地盤の不整形性の影響を評価する。