東北大学災害科学国際研究所の使命は、東日本大震災における調査研究、復興事業への取り組みから得られる知見や、世界をフィールドとした自然災害科学研究の成果を社会に組み込み、複雑化する災害サイクルに対して人間・社会が賢く対応し、苦難を乗り越え、教訓を活かしていく社会システムを構築するための「実践的防災学」の体系化とその学術的価値の創成である。
そこで、本研究所の英知を結集して被災地の復興・再生に貢献するとともに、国内外の大学・研究機関と協力しながら、自然災害科学に関する世界最先端の研究を推進するために、特定プロジェクト研究【所内/拠点研究】の募集を行った。
ここでは、平成27年度特定研究プロジェクト【拠点研究】として採択された研究課題を掲載する。
杉浦 元亮(人間・社会対応研究部門・災害情報認知研究分野)
邑本 俊亮、佐藤 翔輔、野内 類、今村 文彦
阿部 恒之(東北大学)、本多 明生(山梨英和大学)、山口 浩 、佐々木 誠(岩手大学)
3.11震災では、被災・復旧・復興の様々な場面で、多くの人がそれぞれの立場で様々な危機や困難に直面し、それを回避・克服してきた。その際に有利に働いた個人の性格・考え方・習慣について、これまでの2年間で被災者を対象とした聞き取り調査とアンケート調査を実施し、8つの「生きる力」としてまとめてきた。本研究では、この成果を科学的な扱いが可能な一般論に整理した上で、学校教育の理念まで視野に入れた新しい防災・減災・復興のプロトコールに還元することを目標にする。H26-27の2年間で、これら生きる力因子が危機回避・困難克服の個人差を生む際に、脳内のどのような知覚・認知・判断過程がそれを媒介するのか明らかにする。そのために8つの生きる力因子について、災害科学・心理学・認知科学・脳科学の諸分野の知見を結集して知覚・認知・判断過程のモデルを作成し、これを実証するための計測技術・実験環境を開発、これを用いた脳活動計測実験を実施する。その上でこの成果を防災・減災・復興のプロトコールに還元する研究計画を模索する。
蝦名 裕一(人間・社会対応研究部門・災害文化研究分野)
菅原 大助、今井 健太郎、飯沼 卓史、佐々木 宏之、花岡 和聖、石村 大輔、内田 直希
竹原 万雄(東北芸術工科大学)
本研究の目的は、有史以来に東北地方で発生した歴史地震・津波の発生メカニズムや被害発生要因、復興・復旧にともなう社会変動や流行病の発生について、学際的な連携によって総合的かつ時間軸を考慮して解析することにある。まず、従来用いられてきた災害に関する歴史記録に加え、東北地方各地で新たに確認された未調査のままの個人所蔵の古文書や、 人工改変以前の自然地形を描いた古絵図・地籍図などの調査により災害に関する歴史情報を収集・整理する。その上で、収集した歴史災害に関する史料のデータを用いて、歴史資料から解釈できる津波痕跡や堆積物の調査、災害時の状況やGISを活用した自然地形の復元によって、災害発生時の詳細な様相を解明するとともに、その発生メカニズムを分析する。さらに、災害発生時の被災地の情勢や復旧・復興過程、特に当時の疫病発生や公衆衛生の実態について医学的視点から考察を加える。これにより従来の単一の研究分野では成し得なかった学際的な歴史災害研究の手法の確立を目指す。
野内 類(人間・社会対応研究部門・災害情報認知研究分野)
邑本 俊亮、今村 文彦、杉浦 元亮、サッパシー・アナワット、保田 真理
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災害教育とは、災害による人的・社会的被害を軽減するための教育的な取り組みである。ゲームを用いた災害教育は、年代に関係なくすべての個人の防災・減災意識の向上に貢献し、地域・社会全体の防災力・減災力の発展に重要な役割を果たすと期待されている。 そこで本研究は、①前年度作成した災害教育ゲームを通じた災害教育を新たな地域に国際展開し、②前年度に災害教育を実施したアジアと北米で再度災害教育を継続的に実施する。さらに、③各地域で行われている災害教育の取り組みを聞き取り、集約し、災害教育関係者が利用できるグローバルな災害教育データベース&コンソーシアムを作成する。最終的に、ゲームを用いた災害教育の効果のさらなる一般化と国際応用と国際連携を推進し、【どこでも】・【だれでも】・【たのしく】できる実践的防災学の確立を目指す。
井内 加奈子(人間・社会対応研究部門・防災社会国際比較研究分野)
泉 貴子、桜井 愛子、サッパシー・アナワット、マリ・エリザベス、呉 修一、野内 類、地引 泰人、保田 真理
宮本 守(土木研究所)、Gerald V. Paragas(フィリピン・タクロバン市)、Maritess Quimpo(フィリピン公共事業省)、Vicente B. Malano(フィリピン気象天文庁)、Cristopher Stonewlall P. Espina(フィリピン大学)
フィリピンでは、2013 年 11 月の台風ハイエンによる強風・高潮により、レイテ島などで約 7300 名の死者・行方不明者が生じた。災害科学国際研究所の緊急調査より 1)非常に大きな外力、2)沿岸部への居住、3)防災教育不足、4)避難実施時の問題点等が被害拡大要因 である事が明らかとなった。本研究は、台風ハイエン被害からの復旧・復興に貢献すると ともに、Build Back Better を達成するため、1) 被災コミュニティの再建政策・計画実 施の提案・改良、2) 防災教育プログラムの開発・実装、3) 効率的な避難計画・警報伝達 システムの開発を行う。これにより、東北被災地の知見・教訓を活かし、『文理融合の学 際的な復興支援』、『モデリングと経験を融合したコミュニティベースの防災教育』を実施 することで、フィリピンの復興・減災に貢献する事を目的とする。このようなフィリピン への実践防災学的な復興支援の取り組みは、当研究所の新しい特色として必要不可欠である。
遠田 晋次(災害理学研究部門・国際巨大災害研究分野)
岡田 真介、石村 大輔、丹羽 雄一
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2014年11月22日の長野県北部地震(マグニチュード、M、6.7)、長野県小谷村、白馬村で局地的ながら甚大な被害をもたらした。この地震は、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が評価してきた全国110の主要活断層沿いではじめて発生した大地震である。申請者らは地震直後に緊急調査を行い、最大80cmの上下変位(ずれ)をともなう約9kmの地表地震断層を既知の神城断層沿いに確認した。神城断層ではその長さからM7.2の地震が予想され、地震時には3-4mの断層崖が生じると考えられていた。しかし、実際の地震規模や変位量はきわめて小規模であった。本研究は、この過大予測評価の原因を探るために2014年の断層沿いで地震地質・古地震データを新たに取得するものである。具体的には、長野県北部地震の地震断層区間でトレンチ掘削調査を行い、2014年以前の大地震発生時期と変位量などを特定する。まず、長野県北部地震の断層分布を再確認し、空中写真判読等の地形解析を行い、適地を選定する。その後、長さ20mx深さ3mx幅6m程度のトレンチ(調査溝)を掘削し断層を露出させ、壁面観察、スケッチ、地層の年代測定を実施し、2014年地震以前の活動史と変形スタイル、変位量を明らかにする。これによって、2014年地震が典型的な神城断層固有の繰り返し地震だったのか、多様な大地震の1つだったのかなど、今後の活断層評価・地震ハザード評価を左右する重要な基礎データを取得する。
富田 博秋(災害医学研究部門・災害精神医学分野)
兪 志前、笠原 好之、今村 文彦、柴山 明寛、佐藤 翔輔
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災害後のメンタルヘルス支援と一言に言われるが、東日本大震災後、県・市町のレベル、公的・私的団体のレベルで非常に多様なメンタルヘルスに関わる取り組みがなされており、その全貌を把握することは困難な課題であり先例をみない。しかしながら、その全貌を把握し、分析を行うことで、災害後のメンタルヘルス活動を類型化し、各種の活動の効果や課題を明確にしていくことは、今後の災害への備えの体制を整備する上で、極めて有用な基盤情報となると考えられる。昨年度までに予備的アンケート調査を行い、部分的情報の集積を行ったが、本申請研究では、その予備データを元に、災害後メンタルヘルスの取り組みに関する情報をアンケートと聞き取りにより網羅的に集積して分析を行い、取組みの類型化を図るとともに各活動の効果や課題を抽出し、今後の有効なメンタルヘルス支援体制とそのネットワーキングの構築に繋げる。更に、東日本大震災メンタルヘルス・アーカイヴとして、一般公開し広く活用できるようにする。また、昨年度までに情報集積を行ってきた精神科医療機関の災害への備えに関する情報、メディア視聴による心身のストレス反応に関する情報、災害関連ストレスと相関する唾液・血清のバイオマーカー探索の結果を元に、精神科医療機関のより有効な防災体制の実装化、メディアによる震災映像放映のあり方を含むメディアの災害対応方針の策定、災害ストレスマーカーによる客観的なストレス評価技術の確立という形で「こころの防災」の鍵となる技術革新を行う。
伊藤 潔(災害医学研究部門・災害産婦人科)
三木 康宏
鈴木 貴、笹野 公伸(東北大学)、田勢 亨(宮城県立がんセンタ)
被災地の女性が健康を維持する上で、がん検診受診率の回復は急務である。しかし震災後、被災地での子宮がん検診受診率は大幅に低下し、いまだ回復しない。この回復手段として、最新の検査:HPV併用検診(子宮頸癌発症の主因となるウイルスを細胞診と同時に調べる検査)を26年度以降、被災地で実施している。この検診の導入で、受診率の回復・向上とがん発見率の引き上げが可能かどうかを検証する。また震災後、健康に影響を及ぼす生活習慣:喫煙・ホルモン剤の服用状況に変化があるかを検診データから検証し、健康増進策策定の一助とする。一方、宮城県ではがん検診時に高精度の検診方式(経膣超音波検査)も行い、子宮体癌、卵巣癌の疑いも検査している。震災後、ホルモンや環境要因に関連する女性の腫瘍が増加するか否かは、慎重な経過観察と動向分析が必要である。25・26・27年度のモニタリングを行い、今後の女性疾患の動向を予測するとともに、病気の性向を分子生物的手法で分析し、災害後にストレスや環境変化で起こり得る女性の病気の予測と予防策を構築する。
栗山 進一(災害医学研究部門・災害公衆衛生学分野)
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渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所)、釣木澤 尚実(国立病院機構相模原病院)、菊谷 昌浩、石黒 真美、宮下 真子、山中 千鶴(東北メディカル・メガバンク機構)
平成25年6月に被災地の子どもの健康に関するアンケート調査を行った(文科省予算)。その結果仮設住宅に居住する子どもでは、アトピー性皮膚炎である割合が32.3%と仮設住宅以外に居住する場合の21.3%と比較して有意に高く、そのオッズ比は、1.74 [1.02-2.97]であることが明らかとなった。このため、平成26年度の特定プロジェクト拠点B研究によって、パイロット的に仮設住宅におけるカビ類及びダニ類の総数に関する定量的な測定を行い、カビ類及びダニ類の増加傾向を見出しつつある(現在データ収集・まとめ中)。 さらにわれわれは、平成25年度、26年度の就学前小児に関する調査によっても、被災の経験のある子どもでアトピー性皮膚炎や気管支喘息の増加を確認している(厚労省予算。NHK全国ニュースにて放送予定)。特筆すべきは、男女で災害後の健康影響が異なることである。この点は米国NIHにおいて講演を行い、大きな注目を頂いている(論文準備中)。男女差の原因は種々考えられるが、大きな原因のひとつと考えられるカビやダニについて、その種類に応じた詳細な検討が必要であることが示唆されたものと考えている。 本研究ではカビ類、ダニ類の種類別の詳細な測定ノウハウをもつ専門家集団と一致協力し、仮設住宅等におけるカビ汚染、ダニ大量発生の実態把握を行う。さらに住民、特に小児の健康調査を実施し、災害後に増加している小児アレルギー疾患の詳細な原因解明を行って、その効果的な介入方法の確立を行う。住宅でのカビ汚染、ダニ発生の測定では、仮設住宅と、さらに住民が仮設住宅から異動している場合には、異動先の住居においても測定して、健康状態と合わせその違いを比較検討する。自治体等とタイアップしながら、調査結果の啓発活動と効果的な介入を行い、被災地の子どもの健康QOLを向上させるものである。さらに本研究によって明らかとなった介入方法は、今後の大規模災害発生時における対策として政策提言し、わが国の減災の在り方に関する情報を、災害科学国際研究所より発信する。 国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部及び国立病院機構相模原病院アレルギー呼吸器科とはすでに共同研究体制の構築に向けて打ち合わせ済であり、研究体制は万全である。
佐藤 健(情報管理・社会連携部門・害復興実践学分野)
藤岡 達也、桜井 愛子、源栄 正人、丸谷 浩明、増田 聡、柴山 明寛、保田 真理
戸田 芳雄(東京女子体育大学)、渡邉 正樹(東京学芸大学)、矢崎 良明(鎌倉女子大学)、数見 隆生(東北福祉大学)、野澤 令照(宮城教育大学)、小田 隆史(宮城教育大学)、村山 良之(山形大学)、矢守 克也(京都大学)
本研究は、研究組織のメンバーがこれまでに議論を重ねてきた東北大学知のフォーラム分科会1 「災害教育とアーカイブ」(2014.11)、防災教育に関する情報交流セミナー「防災教育を中心とした包括的な学校安全の創造に向けて」(2015.1)、国連防災世界会議PF 「防災教育交流国際フォーラム~レジリエントな社会構築と防災教育・地域防災力の向上を目指して~」(2015.3)の仙台宣言を含む成果をふまえ、2015年3月1日付けでIRIDeS内に設置されたプロジェクト連携研究センター「防災教育国際協働センター」を研究活動の拠点に位置付ける。 研究目的は、東日本大震災の教訓を生かした地域に根差した防災教育モデルの創造、および「防災教育日本連絡会」をはじめとした国内外の研究者ネットワークの拡大と強化である。創造のプロセスにおいては、ESD(Education for Sustainable Development)やPBE(Place-Based Education)、ID(Instructional Design)など教育学を含む文理融合の学際的研究を推進する。また、災害アーカイブや防災情報共有プラットフォームなどとの連携を図る。研究成果の積極的な情報発信の方策として、国連防災世界会議パブリックフォーラムの講演収録集(日・英)の編集・発刊、防災教育国際協働センター主催の「防災教育に関する情報交流セミナー/研究ワークショップ」の開催、防災教育国際協働センターのウェブページの開設などを実施・展開する。
小野田 泰明(情報管理・社会連携部門・災害復興実践学分野)
佐藤 健、桜井 愛子、平野 勝也、本江 正茂、今井 健太郎、小林 徹平、姥浦 道生
佃 悠(東北大学)、北原 啓司(弘前大学)、野原 卓(横浜国立大学)
本研究は、震災で壊滅的被害を受けた石巻市全域を対象地として、困難な状況下において、質の高い空間の再・創生を導き出すことを目的としている。具体的には、個別化する傾向にある様々な復興事業や多様なステークホルダーの統合に寄与することを通じて、魅力ある環境の再整備に貢献する。さらには、それらを通じて得られた情報等を活用し、その重要性が認められながらも、従来はブラックボックス化していた、行政を中心とする復興実践者の構造的課題についても科学的な分析・研究を行う。
小野 裕一(情報管理・社会連携部門・社会連携オフィス)
村尾 修、江川 新一、サッパシー・アナワット、泉 貴子、イ・ケリーン、保田 真理、中鉢 奈津子
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第三回国連防災世界会議で2015年3月18日に策定される、ポスト2015防災フレームワーク(仙台防災枠組み・仮称)の内容を踏まえ、国連を中心とした国際機関によるマルチ、或いは国レベルでのバイの防災政策立案の過程に、本研究所の実践的防災学の成果(東日本大震災から得た教訓も含む)を、関連の研究機関や環太平洋大学連合(APRU)のマルチハザードプログラムなどのネットワークを用いながら反映させ、世界の防災・減災活動に寄与・貢献することを目指す。特に今年度は、国連防災世界会議のフォローアップに照準を合わせ、グローバル災害統計センターとも連携させながら、新しいフレームワークと数値目標や指標をモニタリングする点においても研究の立場から貢献する。また実践的防災学を世界展開するためのべニューを創設することも視野に入れ、災害研として具体的にどのようなテーマを据えて臨むかについて戦略を練り、産学官民連携で2015年以降も仙台で国際的な防災会議を興す準備をする。
源栄 正人(災害リスク研究部門・地域地震災害研究分野)
大野 晋
Dembrel Sodnomsanbuu、Tsamba Tsoggerel(モンゴル科学アカデミー)
発展途上国であるモンゴル国ウランバートル市(UB市)の地震災害軽減のための防災技術支援として、研究代表者らは、リアルタイム地震観測装置を現地に設置して、ウランバートル市を対象とした早期地震警報システムや重要建物の構造ヘルスモニタリングに供するための研究活動をモンゴル科学アカデミーとの共同で行ってきており、モンゴル科学技術大学と共同も参画する形でリアルタイム地震観測技術の地震防災への利活用の技術支援を行っている。これまで、H25年度に防災上最重要施設の一つであるUB市庁舎に構造ヘルスモニタリングを行うべくリアルタイム地震観測装置を設置し、別途設備費として予算措置された6地点(地盤5ヶ所と建物1か所)への観測装置の設置を進めている。本研究では、周辺の高地震地帯からの伝播経路にあたる公共施設5点(3ch+GPS)とUB市内の公共施設(学校)に構造ヘルスモニタリングを兼ねた観測装置(9ch+GPS)を設置するするとともに、現地の地震防災対策の向上に供すべく、リアルタイム地震防災システム(地震警報システムと建物の構造ヘルスモニタリング)構築のための技術支援と技術交流を行うものである。
大野 晋(災害リスク研究部門・地域地震災害研究分野)
源栄 正人、柴山 明寛
三辻 和弥(山形大学)
今後発生が危惧されている南海トラフや首都直下地震等に備えるため、広域の被害分布を精度良く推定する手法が必要とされている。本研究では、東日本大震災を含む近年の被害地震の悉皆調査結果等に基づき、建物群の被害率推定法の再構築を行う。具体的には、まず1) 近年の被害地震の建物悉皆調査結果のGIS化、建物構造種別・年代別分類、宅地・基礎被害による分類と、2) 上記悉皆調査地域の周期別面的地震動分布推定を並行して行う。上記の結果に基づき、3)地震動と建物被害率の関係のモデル化の見直しを行うものである。その際、建築振動工学との連続性を持たせるため、経験的な被害率曲線だけでなく、被害率を説明するような建物群の振動モデルについても検討する。以上の検討により、1) 東日本大震災を含む近年の被害地震の悉皆調査結果に基づく実被害ベースでの被害率曲線の見直しが可能となること、2) 建物被害率の推定に地震動と建物の周期特性や継続時間の影響を考慮できるようになること、等が期待される。ここで開発した手法は、事前の被害想定のみでなく、地震時の被害推定にも有用と期待される。
王 欣(災害リスク研究部門・地域地震災害研究分野)
源栄 正人
党 紀(埼玉大学)
本研究では、スマートディバイスを用いて、その内蔵しているMEMS(Micro Electronic Mechanical System)加速度計を利用し、超低コストな振動計測システムを構築することに試みる。MEMS加速度計は、近年、スマートホンやタブレットなどのスマートディバイスに標準的に搭載され、これらのスマートディバイスの急速な普及に従い、値段が急低下し、その性能が一般の実験用加速度計に追い続いている。スマートディバイスを用いて、構造物が地震時における揺れを観測することが実現することの可能性を検証することによって、地域の地震防災と早期被害把握など、将来的に幅広い応用が期待できる。本研究では、スマートディバイスを研究対象にし、簡易なプログラミングによって、加速度計の計測をアクセスし、計測時間、計測点地理情報、加速度データなどをオンラインで保存・解析するシステムを構築し、スマートディバイス用のアプリケーションを作成する。なお、構築した計測システムの有用性を検証するために、振動台実験を実施し、高精度のサーボ型センサー等の比較を行う。
保田 真理(災害リスク研究部門・津波工学研究分野)
今村 文彦、サッパシー・アナワット、野内 類
Muzailin Affan(シャクハラ大学)、Mark Behrens、Sorot Sawaddiraksa(ハワイ州学校安全局長)
平成25~26年度に実施した、減災教育補助ツールの開発とそれを利用した教育現場での減災意識普及教育の結果と検証を行った。特に平成26年度には宮城県内76校、県外3校、海外12校で実施し、教育後の意識の向上が国内外で確認されたが、現場で政治や文化の違いにより、理解力の差が見られた事から、海外での自然災害教育の現状を詳細に調査し、日本の自然災害教育との比較検証を行う。その上で、個別の国に適応するコンテンツと、すべての国に適応可能なコンテンツを分別し、より効果的な減災意識教育のプログラム化を諮っていく。この成果により、災害科学研究所として、現在国際社会で求められている自然災害教育のグローバル化に寄与できるものと期待出来る。
有働 恵子(災害リスク研究部門・災害ポテンシャル研究分野)
佐藤 源之、後藤 和久、菅原 大助、武田 百合子
高橋 一徳(東北大学東北アジア研究センター)
本研究は、2011年津波前後の海浜地形・津波堆積物・地中レーダ探査(GPR)データの総合的な解析により、巨大津波による海浜変形とその後の回復過程を調べ、その特性を解明することを目的とする。2011年津波では、押し波時に大量の土砂が海域から陸域に輸送され、引き波時には深刻な海岸侵食が生じて大量の土砂が海域に輸送された。陸域への津波堆積物は、復興過程においても大きな弊害となったが、この土砂輸送の全容については未だ解明されていない。また、侵食海岸では今後40年以上をかけた大規模な養浜と海岸構造物の整備が計画されており、今後の回復過程には高い関心が寄せられているものの、これに資する知見は得られていない。本研究は、本研究所所属の研究者が蓄積してきた、最先端の地中レーダ探査・堆積物分析・地形解析技術を統合することで、現地データより海浜変形過程を明らかにすることを目的とする。これにより、被災海岸における今後の海浜回復の展望を示すことが可能になるとともに、今後の海岸管理に資する重要な教訓を国内外に提示する。
坂巻 隆史(災害リスク研究部門・災害ポテンシャル研究分野)
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藤林 恵(東北大学大学院工学研究科)
東日本大震災により、東日本の三陸沿岸では地形や生物相が非常に大きな撹乱を受けるとともに、沿岸地域のインフラ施設や農地等の破壊、人口の減少など、大きな環境の変化が生じた。これらは陸域から沿岸海域への物質流入フラックスにも大きな変化をもたらしたと考えられる。一方、同地域の重要な産業に位置づけられる沿岸海域での水産養殖については、津波により壊滅的被害を受けたがその後の急速に復旧が進められてきた。その過程では、震災前までの過密養殖による生産効率の低下や養殖生物の餌料残渣や排泄物による底層環境の悪化および貧酸素水塊発生の反省から、震災後、養殖密度を減らす試みも進められている。しかしながら、陸域からの負荷、養殖の生産効率、生態系影響のバランスを自然科学的な定量的情報に基づきに適正化させるには至っておらず、現時点での取り組みは試行錯誤的といわざるをえない。本研究では三陸沿岸地域の経済復興支援のための水産養殖システムの適正化に向けて以下の課題に取り組む。1)陸域からの有機物・栄養塩負荷の変化がカキ等養殖生物をはじめとした沿岸海域における生物の成長・生息に及ぼす影響を明らかにする。2)水産養殖施設における養殖生物の摂餌・排糞に伴う環境影響を明らかにする。3)1)2)の結果をふまえ作成される定量モデルから、水産養殖の効率と環境保全の調和を持続させるための方策を提示する。
呉 修一(災害リスク研究部門・災害ポテンシャル研究分野)
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Mohammad Fari(バンドン工科大学)、手計 太一(富山県立大学)、Maritess Quimpo(Department of Public Works and Highway)
近年、日本や世界各地で洪水災害が頻発している。洪水被害の生じる箇所は、過去の雨量・流量データの不足した東南アジア等の途上国である事が多い。本研究の目的は、過去のデータの不足した流域で、既往洪水の再現計算、リアルタイム洪水氾濫計算、洪水氾濫予測等を行うためのフレームワークの開発である。そのため、全世界に普遍的に適用可能な洪水計算モデルと領域気象モデルを使用するとともに、全世界が観覧可能な衛星画像等からモデルのパラメータを決定する。これにより、従来は適用に長時間を要した洪水氾濫計算モデルが、全世界の流域に即時に適用可能となり、1)洪水発生時の氾濫被害状況,、2)その後の洪水氾濫予測、等の情報が早急に発信可能となる。このような途上国での洪水災害への実践防災学的な取り組みは、災害科学研究所の取り組みとして必要不可欠である。
マス・エリック(災害リスク研究部門・広域被害把握研究分野)
越村 俊一
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The present research study aims to explore the practical applications for a swarm (multiple) unmanned aerial vehicle (UAV) system in disaster management phases. The use of UAVs has become of interest for topography mapping, damage monitoring or transportation of small objects for relief support. Previous research studies had demonstrated UAV usefulness for digital elevation model (DEM) mapping, 3D model re-construction of objects, etc. However, a single UAV has limitations of communication range, flight time, payload and therefore area coverage. Thus, tasks for disaster risk reduction can be accelerated with automatically coordinated swarm of UAVs. Some specific applications are rapid mapping and wide area damage observation, large weight object transportation or large coverage in search and rescue tasks. In this study our objective is two-fold: The first objective is to build a framework using agent based modeling (ABM) of UAV-agents for specific tasks to support disaster management. The specific tasks we will address by modeling are: i) Rapid mapping of inaccessible areas; ii) Evacuation support and monitoring; ii) Search and Rescue tasks and iii) Medicine air transportation planning. The second objective is to conduct test flights of UAV for ABM simulation calibration and proof of concept within the framework for all or some of the simulated tasks.
佐藤 源之(災害リスク研究部門・広域被害把握研究分野)
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藤澤 敦(東北大学)、金田 明大(奈良文化財研究所)、土井 恭二(三井造船株式会社)、高橋 一徳(東北大学大学院理学研究科)、菊地 芳朗(福島大学)
東日本大震災の津波被害により、宮城・岩手など東北各県の沿岸部の多くの市町村で住宅地の高台移転に伴う遺跡調査に対して、我々は地中構造や埋設物を可視化できる地中レーダを用いることで、発掘必要性の検討や効率的な発掘作業の計画に役立てられることを実証してきた。本プロジェクトではこうした活動を発展させ自治体への技術供与などにより遺跡調査を効率化し、高台移転実現への貢献をめざす。また文化庁、奈良文化財研究所と協力し、継続的な文化財保護のための遺跡調査技術として地中レーダを地方自治体が利用できる仕組みを構築する。また警察、消防あるいはボランティアによる捜索活動などへの技術供与を推進する。さらに除染活動の推進に伴う福島県内での活動を福島大学、福島県警と連携しながら進める。石巻市長面地区など、震災後水没しているため捜索が行われていなかった地域につても宮城県警と協力した活動を進める。
五十子 幸樹(災害リスク研究部門・最適減災技術研究分野)
鈴木 裕介
堀 則男(東北工業大学)、荒木 慶一(京都大学)、浅井 健彦(ミシガン大学)、高橋 典之(東北大学)、Oren Lavan(イスラエル工科大学)、池永 昌容(東北大学)
東日本大震災を契機として、我が国においてもマグニチュード9 クラスの地震をもはや構 造物設計の想定外とすることは出来なくなった。今後南海トラフを震源域とする巨大地震の発生も懸念されている。従来型の構造物の「保有水平耐力」の考え方に固執しながら設計用地震動入力レベルを引き上げることは、歴史的背景もあり俄には社会的コンセンサスを得がたいと思われる。そこで、今後発生することが予想される極大地震動の規模を想定に入れながら、構造物の倒壊に至るまでの極限挙動を明らかにし、安全限界を精査する作業を同時に進め、設計用地震動と構造物設計限界について想定外を許容しない新しい構造物設計の考え方を再構築していく必要がある。本研究課題では、国内外の①構造物安定限界挙動、②鋼構造、③コンクリート構造④構造制御の専門家が協力し、構造物部材の局部的な破壊や構造物全体の大変形に伴う幾何学的非線形効果により生じる動的不安定現象について多面的な検討を加えると共に、極限外乱を受ける構造物の終局挙動を考慮した安全余裕度確保のための方策を検討する。
鈴木 裕介(災害リスク研究部門・最適減災技術研究分野)
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Sanjay PAREEK(日本大学)、木村 健一(株式会社フジタ)
本研究では、放射能汚染物の中間処理施設及び最終処分場などにおいて放射線遮蔽体として用いられることが確実と考えられる、(放射線遮蔽)コンクリートについて、コンクリートが何らかの外的内的要因によって、損傷を受けた際の(ひび割れ幅や長さ及び表面粗さなどの)損傷レベルに対する(放射線漏えい率や汚染物の溶出などの)リスクアセスメントを定量的に検討可能なデータベース構築に向けた基礎実験及びシミュレーションを実施する。本申請課題内では、コンクリートの損傷レベルとγ線漏えい率の関係について、既存の箱形遮蔽容器を用いて、この容器の蓋板となる遮蔽板にひび割れを誘発させた試験体を膨大量製作し、遮蔽実験を通しデータ収集を実施する。並びに、前記実験のシミュレーションによる評価体系を構築するため、(ひび割れ形状を簡略的に模した)スリットを有する試験体を多様に製作し、これによる遮蔽実験を実施し、実験結果を基に解析モデル及び手法を検討する
後藤 和久(災害リスク研究部門・低頻度リスク評価研究分野)
菅原 大助
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世界各地の沿岸部に堆積する巨礫群は、過去の津波または台風の高波で打ち上げられたと考えられ、その規模や発生時期を推定する上で有用だと考えられる。しかしながら、津波石の認定法が十分検討されていないため、国内外に存在する巨礫群の多くは成因が未だ不明である。また、津波石と認定できた場合でも、巨礫を打ち上げた津波の発生年代や規模を推定する手法が確立していないため、古津波の情報を十分に引き出すことができていないのが現状である。そこで本研究では、津波石の認定方法、および古津波の規模を高精度で推定するための手法を、岩手県と沖縄県での現地調査および数値計算を通じて検討することを主目的とする。現地調査では、巨礫分布と初期位置を推定すると共に、放射性炭素年代法により堆積年代を推定する。数値計算では、津波および高波計算を実施し、現地調査で確認された巨礫群の成因の検討と、津波波源の推定を行う。
菅原 大助(災害リスク研究部門・低頻度リスク評価研究分野)
後藤 和久
James Goff(ニューサウスウェールズ大学)
海岸に存在する砂丘や浜堤列の形成要因としては、海水準微変動、地殻の上下変動、土砂供給量の増大など様々な説明が与えられてきたが、巨大地震・津波との関連はほとんど検討されてこなかった。本研究では、巨大地震・津波に伴う巨視的な影響に着目して、砂丘や浜堤列の形成要因と時期を地質学的手法により再検討し、歴史―先史時代の巨大地震・津波との対応関係を明らかにする。そのため、現地調査による砂丘・浜堤の形態および構造に関するデータの取得、採取試料の分析による供給源の検討、既存資料からの情報収集・整理および採取試料の年代測定、津波土砂移動の数値解析を行い、地震・津波と砂丘・浜堤形成との関連について詳細な検討を行う。本研究により、過去の地震・津波の痕跡としての海岸地形の意義が明らかとなる。また、地震・津波の規模やその後の中長期的影響について、従来以上に多面的な情報の取得が可能となり、被災地域の長期的な地震・津波対策等に資する情報を提供できると期待される。
ブリッカー・ジェレミー(災害リスク研究部門・国際災害リスク研究分野)
ローバー・フォルカ
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最近、台風ハイヤンの津波形サーフビートがフィリピンのヘルナニ市に甚大な被害をもたらさせ、日本においては爆弾低気圧による高潮が北海道根室市沿岸部を浸水させた。現地調査・室内実験・数値シミュレーションを行うと共にサイクロンの被害メカニズムを調べ、被害対策を提案する。
ローバー・フォルカ(災害リスク研究部門・国際災害リスク研究分野)
ブリッカー・ジェレミー
Cheung, Kwok Fai (ハワイ大学)、Goseberg Nils、 Davis Gabriel(University of Hanover)
We have investigated the generation of tsunami-like waves during Typhoon Haiyan. Over the course of large storm events, individual wave groups can form destructive tsunami-like bores due to the release of infragravity energy. These waves are unaccounted for in coastal disaster management plans. This study further analyzes the mechanisms for generation of the tsunami-type bores and investigates specific sites, which could be potentially exposed to the threat from these waves.
邑本 俊亮(人間・社会対応研究部門・災害情報認知研究分野)
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細川 彩(国立長寿医療研究センター)
東日本大震災後、様々な人が自分自身の体験を語り、多くの体験談が残された。体験談は将来の災害発生時に役立つように伝承されなければならない。震災体験談には、実際に起こった出来事に加えて、語り手特有の陳述(後悔、教訓、意味づけ、悟り、感情など)が数多く含まれている。こうしたさまざまな内容の中で、何がどのような意味を持っているのであろうか。それらのうちの何が伝承すべき重要性を有するのであろうか。本研究では、震災体験談において語り手が何をどのよう形で述べているのか、そして、体験談のどのような部分が受け手の記憶に残りやすいのかを明らかにすることを目指して、まずは体験談を分析するための枠組み構築を行う。具体的には、談話分析や探索的心理実験を繰り返しながら、震災体験談に特化した談話構成要素の分類カテゴリーの確立を行う。
奥村 誠(人間・社会対応研究部門・被災地支援研究分野)
ダス・ルーベル、佐藤 大介
南 正昭(岩手大学)、浜岡 秀勝(秋田大学)、神谷 大介(琉球大学)、植田 今日子(東北学院大学)、藤原 潤子(総合地球環境学研究所)
昨年2月山梨県、本年2月山形県の豪雪による孤立に代表されるように、異常気象を原因とする交通途絶が頻発している。しかし、交通の途絶が発生しても、地域に「籠城」するための事前の認識と備えがあれば大きな問題とはならない。つまり、事前の認識、直前の準備状況との関係を踏まえ、途絶の災害化に至るプロセスを分析することが必要である。本研究では、台風による交通の途絶にさらされる沖縄県の離島の実態に詳しい研究者、積雪による交通の途絶にさらされる東北地方山間部の実情に詳しい研究者とともに、交通の途絶の発生頻度、深刻化のプロセス、地域住民の事前認識と対応行動を調査、整理することを目的とする。合わせて途絶状況の克服が交通政策につながった歴史も検討する。また、研究代表者の奥村らは、関連する内容の書籍「途絶する交通・孤立する地域」を東北大学出版会から公刊している。その共著者のシベリアを専門とする文化人類学者、沖縄を対象とする社会学者もメンバーに加え、分野横断的な研究を行い、情報提供のあり方、事前規制の在り方、事前準備の高度化などを議論したい。
ダス・ルーベル(人間・社会対応研究部門・被災地支援研究分野)
奥村 誠
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A country is required to be prepared for absorbing initial shock of a disaster and for providing assistance (i.e., relief item) to victims. Due to a poor performance of relief distribution after recent disaster including the 2011 great east Japan earthquake and the 2010 Haiti earthquake, disaster logistics (DL) becomes central part to the improvement effort. Study on disaster logistics is still limited and fails to incorporate the properties of disaster circumstances. If relief items are send to affected areas without considering urgency, those relief items produce negative effect on restoration of the affected areas. Moreover, those relief items may hinder the smooth flow of high urgency products. The study aims on designing a strategy for relief preparedness due to high stake of time during initial stage after a large scale disaster.
佐藤 大介(人間・社会対応部門・歴史資料保存研究分野)
安田 容子
高橋 美貴(東京農工大学大学院)、高橋 陽一(東北大学東北アジア研究センター)
東日本大震災の被災地域において、津波その他で被災したものも含めた、文書や古美術品などの歴史資料を、地域社会における「歴史情報資源」として活用・継承するための環境整備を実践する。そのことを通じて、実務的課題について検討する。その上で、これらの歴史情報資源に内包される情報を活かし、被災した地域の「未来の古文書」を作成するという視点を踏まえ、地域の歴史文化的記憶の復元・記録化を進めてゆく。これらの作業過程の検証を通じて、歴史記録の中長期的な継承のための社会的なしくみのあり方について研究する。
天野 真志(人間・社会対応研究部門・歴史資料保存研究分野)
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奥村 弘、吉川 圭太、水本 有香(神戸大学大学院人文学研究科)、佐々木 和子(神戸大学)、川内 淳史(大阪市史編纂委員会)
東日本大震災の被災地域において、津波その他で被災したものも含めた、文書や古美術品などの歴史資料を、地域社会における「歴史情報資源」として活用・継承するための環境整備を実践する。そのことを通じて、実務的課題について検討する。その上で、これらの歴史情報資源に内包される情報を活かし、被災した地域の「未来の古文書」を作成するという視点を踏まえ、地域の歴史文化的記憶の復元・記録化を進めてゆく。これらの作業過程の検証を通じて、歴史記録の中長期的な継承のための社会的なしくみのあり方について研究する。
丸山 浩明(人間・社会対応研究部門・防災社会システム研究分野)
寅屋敷 哲也
白木 渡(香川大学)、中野 晋(徳島大学)
大学の業務継続計画(BCP)は、企業や行政でBCP策定が進む中で必要性が高まっている。学生や教職員の安全確保や資産の保全に加え、厳しい競争下にある研究の継続、卒業・入学の確実な実施、地域社会貢献などのためにBCPの必要性は高い。諸外国においては大学の策定例が数十校以上公開されているが、国内の大学でのBCPの策定事例は少ない。この中で、東北大学の本部は、東日本大震災の被災大学として防災・危機管理能力を高めるため、27年3月から1年間でBCPを策定する予定であり、並行して災害科学国際研究所もBCPを策定する予定である。研究代表者はこれらを推進する立場にある。前年度の研究では、国内外の先行事例の把握に加え、国立大学のBCP策定の先行例である香川大学の実情を調査したが、引続き今年度も連携してBCPのあり方を研究するともに、教育機関で有望と思われるアクションカードの活用を研究している徳島大学の協力も得て、BCP策定の実働から得られる知見を活かし、大学にとって有効性が高く、かつ導入しやすいBCPの策定・運用方法を研究し、これを公表する。
寅屋敷 哲也(人間・社会対応研究部門・防災社会システム研究分野)
丸谷 浩明
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本研究では、東日本大震災の被災地域におけるライフライン(電気、水、ガス、通信、燃料等)の途絶における地域産業への経済波及の影響を検討し、その経済的インパクトをもとに地域におけるライフラインの重要度についての評価を試みる。災害後の被災地域の復旧は、地域におけるライフラインの復旧状況に大きく依存するため、ライフラインの地域の中でいかにして戦略的かつ効果的な復旧を実施するかによって、全体の復旧の早さや他の経済主体への波及影響の内容が異なる。本研究では、経済復興の視点からみた地域別のライフラインの重要度に着目して研究を進める。なお、香川大学では、地域へのインパクトを評価して地域継続のためにライフラインの復旧優先度を評価する試みを進めており、これも参考として手法の検討を行う。本研究で検討したライフラインの重要度の評価手法は、南海トラフ地震で大被害が想定される地域をモデルに適用できるのかの評価も研究に含める。
増田 聡(人間・社会対応研究部門・防災社会システム研究分野)
吉田 浩、小野 裕一
桑山 渉(東北大学大学院経済学研究科)、小田 隆史(宮城教育大学教育復興支援センター)、高木 亨(福島大学うつくしまふくしま未来支援センター)、野呂 拓生(青森公立大)、萩原 泰治(神戸大学大学院経済学研究科)、八木橋 雄介((財)みやぎ建設総合センター)
東日本大震災は津波被災地を中心に様々な構造物に壊滅的な物的被害をもたらし、現在、膨大な復旧・復興事業による建設需要が拡大中である。地域建設業を中心にこれらの需要対応が行われ、その波及効果は他産業にも広がっている。しかし、集中復興期間の最終年度にあたる平成27 年度以降は、住宅再建ブームの終了とともに、復興特需の急減が予想されている。地域産業は、このような環境変化を踏まえて、単に一時的なインフラ建設需要に対応すること以上に、復興事業を資本蓄積や技能高度化、構造改革の契機として、将来的なビジネス展開の方向性を考えていくことが求められている。以上の問題意識から、東日本大震災からの復興事業とコミュニティ再生の実態をフォローしながら、「本当に、地域住民の生活に根ざした地域施設整備やサービス提供を担いうる地域産業が成立・成長しうるのか」を検討するための端緒を開くことが、本研究の目的である。
島田 明夫(人間・社会対応研究部門・防災法制度研究分野)
丸谷 浩明
小森 繁(東北大学大学院法学研究科)、市野 塊、轡田 真宏、村田 弦、吉田 翔馬(公共政策大学院)
平成23年度から3年度に渡り、平成23年度には災害応急対策、平成24年度には災害復旧対策、平成25年度には災害復興・予防対策における災害対策法制の問題点と課題について、研究してきたところである。この間、3度に渡る災害対策基本法の改正、大規模災害復興法の制定、東日本大震災特区法改正などによって、提言の一部は実現した。また、研究代表者が委員を務めている、内閣府の被災者に対する国の支援の在り方に関する検討会・被災者の住まいの確保策検討ワーキンググループ中間報告「被災者の住まいの確保策に関する委員の意見整理」においては、これらの3年度に渡る研究成果が反映されている。なお、昨年度においては、災害応急対策に関する災害対策法改正等と実際の東日本大震災の災害応急対策の実態とを比較検討することによって、防災法制改正等のうち災害応急対策に係る積み残しの問題点を明らかにしたうえで、その更なる改善点について提言をまとめた。しかしながら、復興まちづくりの観点からは、復興に係る法制度は未だに多くの問題点を抱えており、まちづくりの促進のための見直しに迫られている。本研究においては、復興庁、内閣府、国土交通省等の関係機関から集めた東日本大震災に係る法制度とその運用の実態に加えて、復興まちづくりを進めている被災自治体やUR都市機構等からの詳細な実地ヒアリング調査を踏まえて、復興まちづくりに係る諸法についての問題点及び検討課題を実証的に抽出するとともに、復興まちづくりにおいて必要とされる法制度の在り方についても提言をまとめることを目指す。
川島 秀一(人間・社会対応研究部門・災害文化研究分野)
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列島の太平洋沿岸に顕著に見られる津波の記録媒体として、石造の記念碑や供養碑などが残されている。西南日本には近世の建立が多く、三陸沿岸では近代の建立が多いが、その地域的、時代的特徴を捉えるのが、本研究の目的である。とくに、碑文の内容の比較だけではなく、その立地箇所(津波浸水線であることが多い)や、造立者の情報(公的か私的か)など、文献資料の扱いとは異なる、聞き書きを主とする民俗学的方法で総体的に把握する。
マリ・エリザベス(人間・社会対応研究部門・防災社会国際比較研究分野)
井内 加奈子
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In recent years, major post-disaster relocation projects have occurred in many countries including at a large scale after the 2004 Indian Ocean Tsunami (in Indonesia, Thailand, Sri Lanka, and India), and in other cases after volcanic eruption (Mt. Merapi, Indonesia 2010) or typhoon (Haiyan, Philippines, 2013). Relocation and displacement also occurs after earthquake disasters when “no-build” or “red zones” are created, such as in Italy after the L’Aquila Earthquake (2009) and New Zealand after the Christchurch Earthquake (2011). After the Great East Japan Earthquake, Japan's Tohoku region is also facing large-scale residential relocation projects. Japan has policies and precedents for land readjustment and relocation, such as the Hanshin Awaji Earthquake (1995) and Chuetsu Earthquake (2004), but the current scale of relocation, and specific challenges of long-term displacement in Fukushima Prefecture are unprecedented. This research will consider the current situation of ongoing relocation projects in the Tohoku area, along with a comparison of relevant international case studies of post-disaster relocation. This research will continue past research that compares the role of residential buyout as housing relocation after Hurricane Sandy in the U.S (2012) with collective relocation for disaster mitigation in Tohoku. The proposed research will also build on past research about housing relocation in Indonesia, Thailand, and the Philippines, and a new research investigation about displacement and housing relocation in recovery in Italy and New Zealand, towards developing framework to compare and mitigate the impact of residential relocation on disaster survivors in Japan and other countries.
岩田 司(地域・都市再生研究部門・都市再生計画技術分野)
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東日本大震災では、応急仮設住宅や復興住宅に関し、地域の資源(地場産材や人材)を活用した地域型木造住宅の活用が推進されてきた。この背景には、大規模災害による大量供給が必要であったばかりではなく、特に地域の活性化、その後の住宅の維持管理、増改築の需要による地域の持続性に着目したものである。一方で国土交通省による「地域住宅ブランド化事業」に見られるように、全国的規模で、木材の山地から実際の施工者(いわゆる川上から川下)まで一体となった地産地消型の地域型住宅建設の推進が図られている。この持続可能な地域活性化は、大規模災害時においても地域の自律的復旧、復興に必要不可欠である。 そこで本研究では、このような地域型住宅建設を推進する全国の事例を概括し、代表例に対し地域への経済的波及効果を試算し、今後の災害時における住宅政策における課題を整理する。
花岡 和聖(地域・都市再生研究部門・都市再生計画技術分野)
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本研究の目的は、チェルノブイリ原子力災害の被災地であるウクライナとベラルーシを対象に、大規模な国勢調査マイクロデータを活用した多変量解析を通じて、被災地内外の人口変容及び人口移動、そのマクロな社会経済背景・復興政策との関連を明らかにすることである。ここでの知見を、福島県や宮城県の将来人口予測へと役立てる。 チェルノブイリの被災地では、発災後、急激な人口減少を経験したが、30年近くが経過し、一部の中小都市では人口増も観測される。そこで、最近の二カ国の国勢調査マイクロデータ(個人・世帯票)を基に、近年、被災地域において、どのような人々が継続して居住しているのか、どこからどのような人々が転入・転出しているのか、その規定要因を定量的に把握する。なお、二カ国の国勢調査マイクロデータは、IPUMS International(ミネソタ大学)から提供を受ける。また本研究は、本年度に災害研に滞在中のハンガリー科学アカデミー所属の研究員の協力を得て実施する。
姥浦 道生(地域・都市再生研究部門・都市再生計画技術分野)
花岡 和聖
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我が国においては、人口減少・高齢化・財政状況の悪化等を背景として、都市・集落形態のコンパクト化、いわゆるコンパクトシティが希求されており、多くの自治体においてそのための都市計画的努力がなされている。被災自治体においても同様であり、被災直後に策定された多くの復興計画においては、総論的に「コンパクトシティ」が謳われていた。
寺田 賢二郎(地域・都市再生研究部門・地域安全工学研究分野)
森口 周二
竹内 則雄(法政大学)、車谷 麻緒(茨城大学)、高瀬 慎介、加藤 準治(東北大学)、浅井 光輝(九州大学大学院工学研究院)、金子 賢治(八戸工業大学)
H26年度の研究課題に対する継続した取り組みとして、遡上津波による都市域内の構造物の損壊メカニズムの解明に資する流体・構造連成解析手法のプロトタイプの完成を目指すともに、構造部材の漂流・衝突に伴う流体力の時空間変化プロセスの調査・考察が可能となるような“見える化”を試みる。震源域沖合からの津波の伝播・遡上にはH26年度に開発した2D-3Dハイブリッド手法を適用し、街中への浸水過程の3次元数値解析手法の高精度化およびロバスト化を図る。並行して開発を進めている、有限要素法と個別要素法を組み合わせた解析手法には、建物の損壊過程のより精緻な再現を目指して結合力モデルを導入する。そして、GISデータを用いて広域の地形の数値モデルを生成し、沿岸部における堤防や防潮堤、および都市域の構造物のモデル化には3次元数値地図・CADデータを利用して生成して実際の街並みを解析対象とする。解析結果は、H26年度に所内に導入した「災害科学情報の多次元統合可視化システム」上で重層的かつ精細に表示し、現象の直感的な理解を助ける視覚的効果を例証する。
森口 周二(地域・都市再生研究部門・地域安全工学研究分野)
寺田 賢二郎、福谷 陽
大竹 雄(新潟大学)、桜庭 雅明、野島 和也(日本工営株式会社中央研究所)
高精度な数値解析を主軸とする信頼性解析手法の枠組みを応用し、津波発生時の沿岸部における高精度な津波到達高さの確率論的評価を可能とする枠組みを提案する。また、東北地方太平洋沖地震に伴って発生した津波を対象として、提案する枠組みを適用することにより、その利点や問題点を明らかにする。複数ケースの数値解析の結果と各種のバラツキを考慮して、発生確率分布を直接的に求めるため、高度な数値解析の結果を反映させた確率論的評価が期待できる。また、本研究で用いる評価の枠組みは、津波以外の災害に対して応用が可能である。今後の防災を考える上で、数値解析技術と確率論的評価の融合は、学術レベルと実務レベルの双方に対して重要なものであり、本研究の成果はその良例として提示することが可能である。
永野 光(地域・都市再生研究部門・災害対応ロボティクス研究分野)
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災害対応の遠隔操縦ロボットが十分なパフォーマンスを発揮するためには、ロボット単独の性能を高めるだけでなく、操作者の能力を向上させ、負担を減らす必要がある。これまでに、ヒトの知覚と行動の関係には個人差が存在することが知られており、その関係の違いが操作者の技能獲得に要する時間的および心理的負担に影響すると思われる。本課題では、知覚と行動における個人差を考慮し、機械がヒトの特性に協調する操作システムを開発する。具合的には、体全体を対象とする広範囲分布型多出力の触覚ディスプレイを開発し、それを利用し操作・センサ情報を操作者にフィードバックする。また、システムを構成する触覚ディスプレイ(出力情報)およびセンサ(入力情報)に冗長性を持たせ、利用する情報を選択するなど、フィードバックシステムを個人ごと最適化することで、操作者個人の特性をシステムに反映する。以上のシステムによって、極限環境におけるロボット操縦者の能力を向上させ、負担を減らすための技術を実現する。
村尾 修(地域・都市再生研究部門・国際防災戦略研究分野)
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薬袋 奈美子(日本女子大学)、Miho MAZEREEUW(マサチューセッツ工科大学)
自然災害の多発する我が国では、多くの災害を教訓とした防災上の様々な知見が蓄積され、都市や集落においても、人工的あるいは自然発生的に、防災のための様々な空間が施されてきた。防災には、構造物あるいは土地利用規制によって災害による外力を可能な限り抑止する「被害抑止(mitigation)」(ハード防災)と、事前の取り組みによって被災後の対応を円滑にするための「被害軽減のための事前準備(preparedness)」(ソフト防災)の二種類の対策があるが、「被害抑止」は地域の防災を進めていくうえで基本となるものである。本研究では、(1)東日本大震災を対象として、減災を目的として造られてきた空間の被害抑止効果について分析するとともに、(2)国内外の土着的な集落および都市空間を「災害対応」という新たな枠組みで再整理したうえで、(3)今後の災害環境に対応するよう都市・建築空間デザインコードを用いて体系化する。
岡田 知己(災害理学部門・地震ハザード分野)
三浦 哲、遠田 晋次、山本 希、市来 雅啓、内田 直希
飯尾 能久(京都大学防災研究所)、松本 聡(九州大学)、Rick Sibson(オタゴ大学名誉教授)、松澤 暢、矢部 康男、中島 淳一(東北大学大学院理学研究科)、長谷川 昭(東北大学名誉教授)
東北地方において、活断層周辺や火山周辺における地震活動に対する東北地方太平洋沖地震の影響について検討を行う。東北大学により蓄積されている過去の地震観測記録や臨時地震観測記録を活用する。また、沈み込み帯として同種の背景を持つ中国地方・九州地方・ニュージーランドとの比較検討を通して、地震発生モデルの高度化ならびに関係機関との連携強化を行う.
内田 直希(災害理学研究部門・地震ハザード分野)
三浦 哲、岡田 知己
浅野 陽一(防災科学技術研究所)、長谷川 昭(東北大学理学研究科名誉教授)、中島 淳一、太田 雄策、豊国 源知、矢部 康男、松澤 暢(東北大学理学研究科)
東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)は、その周囲の地震発生様式を大きく変え、日本列島がこれまで経験したことがないような状況を生じさせた。例えば、地震時大すべり域では、プレート境界地震が静穏化し、代わりに周囲で地震数が増えた。また、陸側のプレート内と沈み込むプレートの海溝近傍では正断層型地震が増加した。また関東地方では、通常地震後にみられる地震数の減少が鈍く、房総沖スロースリップイベントの発生間隔の短縮化し、応力増加レートが上がっていることが指摘されている。したがって新たな活動様式を明らかにし、その原因とそこから予想されるハザードを理解することが重要である。本研究では、小繰り返し地震を含む種々の地震、GPS等のデータを用いて、関東地方および東北地方で現在起きている地震活動の原因を調べる。また、岩石実験による素過程の研究、地震による地表のゆれをより高精度で見積もる手法の開発も行い、得られた地震活動の特徴をハザード評価につなげる。本年度は昨年度に引き続き最近までの地震活動の特徴を続けるほか、特に東北沖地震直後から現在までの時間変化について重点的に解析を行う。
三浦 哲(災害理学研究部門・火山ハザード分野)
山本 希
太田 雄策(東北大学大学院理学研究科)、大園 真子(山形大学)
火山噴火に伴う主要な災害には、噴石、降灰、火砕流、溶岩流、土石流、融雪型火山泥流などがあるが、いずれの場合も噴火がどの場所で起こりうるかについて、ある程度事前に絞り込んでおくことができれば、火山災害の軽減にとって極めて有益な情報となる。本研究では、活発化した火山で観測される山体の変形等を高精度で把握することによって、噴火前のマグマの上昇・移動といった現象について可能な限り精確な推定を行い、噴火ポテンシャルの評価を行うための手法を開発する。
山本 希(災害理学研究部門・火山ハザード分野)
三浦 哲、市來 雅啓
小菅 正裕(弘前大学)
東北地方太平洋沖地震は広範囲の応力分布・歪場の変化を引き起こし、火山噴火の誘発などの火山災害リスクの上昇が懸念されている。そこで、本研究では震源域に近い東北地方の活火山における過去の地震観測記録の系統的な再解析などを通じて大地震の火山活動に対する影響について検討を行うとともに、今後の火山活動変化・推移把握といった活動モニタリングに必要な観測網の検討および試験観測を行う。具体的には、東日本太平洋沖地震以後に火山活動・地震活動の活発化が見られはじめた八甲田山・十和田湖等の東北地方の活火山を中心とした臨時地震観測・既存データのデータ解析を進め、火山性流体の移動に伴う構造時間変化や流体物性変化の検出に取り組み、災害事前対策・災害発生予測と将来への備えに資することを最終目標とする。
市來 雅啓(災害医学研究部門・火山ハザード分野)
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小川 康雄、神田 径(東京工業大学)、海田 俊輝、鈴木 秀市、出町 知嗣、中山 貴史、平原 聡(東北大学大学院理化学研究科)
水蒸気噴火を主体とする吾妻山もしくは蔵王山に於いて噴火予測の基礎資料となる火山体下の熱水分布を電気伝導度構造から推定する. 火山体下の熱水分布の解明は, 1)深さ約20kmで頻発する火山性深部低周波微動と噴火との関連性の解明, 2)水蒸気噴火の監視の「ツボ」の特定, にそれぞれ大きく貢献することが期待される. 特に後者における熱水活動の「ツボ」である火口近くの熱水だまり解明は, 将来的に計画している電気伝導度変化をモニタリングする手法の開発と併せて、予測が困難であった水蒸気噴火や,災害予測の為の噴火推移予測の高度化の足掛かりとなることが期待される.
岡田 真介(災害理学研究部門・地盤災害研究分野)
今泉 俊文
住田 達哉、牧野 雅彦(産業技術総合研究所)
H24年度に実施した仙台平野南部における反射法地震探査の解析結果から、沖積平野下に伏在 する活断層の存在が明らかになった。また、反射法地震探査測線に沿って実施した重力探査の 結果、活断層運動に伴った地質構造の変位・変形による急激な重力変化が観測された。H26年度における愛島丘陵周辺~名取川右岸に至る重力探査では、仙台平野南部の伏在断層は、長町-利府断層の一部である苦竹伏在断層と連続せず、愛島丘陵北端付近で終端となっていることが明 らかになった。対象とした伏在活断層は、仙台平野南端付近から約20kmにわたって連続する 伏在活断層であることが示唆された。 しかし、この伏在断層とその西側に存在する阿武隈山地北部を隆起させる活断層運動や双葉 断層との関係については明確ではない。これは仙台平野南部のテクトニクスを明らかにする上 では重要な知見となるため、本研究で愛島丘陵南部~阿武隈川周辺において追加調査を実施し、 これらの関係について明らかにしようと試みる。
須賀 利雄(災害理学研究部門・気象・海洋災害研究分)
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木津 昭一(東北大学大学院理学研究科)、杉本 周作(学際科学フロンティア研究所)
海洋表層の水温・塩分構造の変動は、海面熱フラックスや海水密度の変動を通じて、大気擾乱や海面水位変動に影響を与え、気象・海洋災害の直接的・間接的な原因となる。本研究は、観測網がほぼ完成してから約10年になるArgoフロート観測網によるデータ、および、大気再解析データ、衛星海面高度観測データ等を解析することにより、北太平洋中緯度海洋における深度数百メートルまでの表層水温・塩分構造の年々変動とその要因を明らかにすることを目的とする。とくに、冬季混合層の水が亜表層に沈み込むサブダクション過程の年々変動を定量化すること、サブダクションの変動を支配する冬季混合層の年々変動の要因を明らかにすること、冬季混合層の変動と海洋内部の水温・塩分偏差場の変動を定量的に関連付けることを目指す。さらに、得られた結果や観測自誌状況についての情報を、表層水温・塩分変動のモニタリングの観点から分析し、観測システムの要件を考察して、海洋観測に関する国際プログラムの計画立案・更新作業への提案を行う。
山崎 剛(災害理学研究部門・気象・海洋災害研究分野)
岩崎 俊樹
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地形が本質的な役割を果たす大雨と大雪に関して非静力学数値予報モデルによる再現実験を行う。地形を改編した実験により地形の果たす役割を明らかにする。また、総観場の解析を通して災害をもたらす大雨・大雪の特徴と、予測可能性を検討する。具体的には以下の2つの事象を対象とする。1) ネパールヒマラヤのモンスーン期の豪雨(2014年8月)、2) 関東甲信地方の大雪(2014年2月)。1)に関しては、強雨は夜間に起こる傾向が顕著であり、山岳域・高原の加熱と局地循環に着目する。2)に関しては、寒気の流入が重要となり、近年導入された等温位面を用いた寒気質量の概念を使った解析を行う。
三澤 浩昭(災害理学研究部門・宙空災害研究分野)
小原 隆博、土屋 史紀
増田 智(名古屋大学)、岩井 一正(国立天文台・野辺山太陽電波観測所)
太陽大気の大規模な変動現象であるコロナ放出現象(CME)の発生時には、Ⅱ型と呼ばれる電波バーストが頻出するが、同時に、宇宙飛行士や航空機搭乗者への放射線障害を引き起こす危険のある太陽高エネルギー粒子(SEP)現象を伴う場合があることが知られる。近年の研究により、特にⅡ型電波の出現周波数範囲が広い場合にSEP現象の発生確率が高いことが示されている。光速で伝わる電波はより伝搬速度の遅いSEPに先んじて地球に到達するので、この研究結果はⅡ型電波の出現周波数範囲の同定がSEP発生の早期警戒に役立つ可能性を示唆する。また、申請者らの研究によりⅡ型電波は非常に大きな粒子加速の存在を暗示する微細構造の集合体である可能性が示され、この電波の精細解析が電波とSEP発生のキーとなる可能性がある。本研究ではⅡ型電波を広帯域且つ高分解観測可能なスペクトル観測装置を構築し、電波の微細構造の観測・解析から、特にSEP現象に関わるⅡ型電波の発生環境・条件の導出を行う。また、Ⅱ型電波の出現周波数範囲を迅速に同定し得るアルゴリズムの策定も課題とし、電波観測に基づく太陽活動危険状態監視の実現化に向けた基礎研究を行う。
土屋 史紀(災害理学研究部門・宙空災害研究分野)
小原 隆博、三村 浩昭
田所 裕康(東京工科大)、森永 洋介(東北大学大学院理学研究科)
地球周辺の高度数100kmの低高度領域は、数多くの人工衛星並びに国際宇宙ステーションが周回し、宇宙空間における主要な人間活動の場となっている。この領域の宇宙放射線(高エネルギー粒子)量の把握と予測は、衛星への宇宙線障害対策や宇宙空間での有人活動を行う上で必要不可欠となる。申請者らが世界各地で実施している低周波電波観測は、高エネルギー粒子が地球高層大気を電離する様子を捉えることができる。本研究ではこの電波観測網を用いて高エネルギー粒子の低高度領域への侵入タイミング・規模(侵入量、継続時間、空間スケール)を把握すると伴に、宇宙空間における高エネルギー電子の散乱源となるプラズマ波動の人工衛星観測・地上観測と比較し、低高度領域での宇宙放射線の出現特性とその原因を明らかにする。
丹羽 雄一(災害理学研究部門・国際巨大災害研究分野)
遠田 晋次、石村 大輔
須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
海溝型巨大地震に関連した長期地殻変動の痕跡は海岸の隆起・沈降という形で地形・地質に記録され、このような記録は超巨大地震繰り返しモデルを構築する上で重要な情報となる。短期間(数十~百年スケール)の地殻変動は測地観測によってデータを得ることができ、10万年スケールの長期地殻変動は海成段丘の高度と年代に基づいた検討がこれまでになされてきた。一方、両者の中間的時間スケール(数千から数万年間)の地殻変動に対しては検討例がほとんどない。数千年間から数万年間の地殻変動の実態を捉えることができれば、海溝型巨大地震に関連した地殻変動メカニズムの実態に迫ることが期待できる。海陸境界に位置する沖積平野を構成する地層(沖積層)は過去数千年から数万年間の海岸付近の環境変化の記録媒体であり、詳細な堆積相解析や高密度な年代測定を行うことで数千~数万年間の地殻変動の実態を明らかにできると想定される。本研究では、沖積層に対し、堆積相解析および高密度な年代測定を行い、従来よりも正確な環境変化の復元を行う。さらに、復元した環境変化に基づいて数千~数万年間の地殻変動の実態を明らかにする。
石村 大輔(災害医学研究部門・国際巨大災害研究分野)
遠田 晋次、丹羽 雄一
宮内 崇裕(千葉大学大学院理学研究科)
M8-9規模の海溝型巨大地震が発生している世界のプレート収束帯(カスケード、アラスカ、スマトラなど)では、過去の地震時変動・余効変動・地震間変動の情報が地形・地質学的調査によって得られ、それらは海溝型巨大地震サイクルモデルの構築に重要な役割を果たしている。しかし、2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)が発生し大規模な地殻変動が観測された東北地方太平洋岸では、観測記録以前の地震・津波履歴情報が不足しているだけでなく、それらの地震の規模や破壊領域を知るために重要な地震時の地殻変動に関する情報は得られていない。本研究では、三陸海岸に分布する完新世段丘・低地を対象に地形・地質調査を実施し、過去の巨大地震時における地殻変動の推定および日本海溝周辺での海溝型巨大地震サイクルモデルの構築を目的とする。さらに過去の地震発生の証拠として、離水海岸地形と津波堆積物を指標として用いるため、東北地方太平洋岸での問題である長期間(数千~十万年)の地殻変動とともに古地震・古津波履歴情報も同時に得られると期待される。このような過去の巨大地震時における地殻変動に関する情報は、沿岸部の都市計画や防災計画に貢献することも期待される。
江川 新一(災害医学研究部門・災害医療国際協力学分野)
佐々木 宏之
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東日本大震災における保健医療対応の教訓から、広域大規模災害においては保健医療支援あるいは受援のコーディネーションを効率化すべきであることが明らかとなった。エージェントベースのシミュレーションとは異なりシステムダイナミクスモデルは社会における方針決定の結果が最終的にどのような結果に至るかを予測するのに優れている。本研究では、災害保健医療の交絡因子を具体的に設定することにより、発災後数日から数か月までの地域医療の復旧に関するシミュレーションを行い、支援・受援に関する方針の妥当性を検証する。
佐々木 宏之(災害医学研究部門・災害医療国際協力学分野)
江川 新一
高田 洋介(人と防災未来センター)
東日本大震災の際、被災地医療機関では受援体制の未整備により支援の受け入れに十分手が回らず、支援力を十分活用できなかった。受援計画の事前整備が必要不可欠と考えられた。当研究室では平成25年5月?7月に東日本大震災被災地医療機関を対象に「医療機関における『受援計画』に関するアンケート調査」を実施した。受援計画として策定しておくべき事項について意見を集約し、「受援計画を含む災害対応チェックリスト(試案)」としてまとめHP上で公開した(アンケート集計結果を平成26年2月の第19回日本集団災害医学会総会(優秀演題セッション)で発表済み。また平成27年4月に名古屋市で開催される第115回日本外科学会定期学術集会の特別企画(上級演題)「南海トラフ地震にどう対応するかー未来に対する災害の備えー」に演題が採択されている)。さらに同調査結果内容を日本集団災害医学会雑誌に原著論文として投稿中である。上記結果をふまえ平成26年度プロジェクト研究として平成26年11-12月に南海トラフ地震被災地域医療機関を対象とし、医療機関受援計画に関するアンケート調査を実施した。600を越える医療機関より回答を得、現在、結果を解析中である。本研究では、研究対象を日本国内全体の医療機関に拡大する。各医療機関、自治体、医師会等と連携し、日本全国での受援計画策定状況調査及び受援計画策定の支援活動を行う。また調査結果で得られた知見を、海外での災害時医療支援に活用できるよう各国政府、国連関係機関、NPO等と情報を共有し、国内外被災地医療機関の受援力向上に貢献する。
浩 日勒(災害医学研究部門・災害感染症学分野)
服部 俊夫
仁木 敏郎(香川大学)、久志本 成樹、工藤 大介(東北大学)、Elizabeth Telan(サンラザロ病院)
申請者はデング熱ほど高値ではないが、レプトスピローシスや結核などの細菌感染症で も血漿中のマトリセルラー蛋白(MCP)が上昇することを示し、災害感染症のよいマーカー となる可能性を提唱している。すなわち、MCP は原因が多様な疾患群の重症度を示すマー カーである可能性もあると思われる。細菌感染症の重症型は敗血症であり、細菌によっ て引き起こされた全身性炎症反応症候群である。敗血症は細菌感染症の全身に波及したも ので非常に重篤な状態であり、無治療ではショック、DIC,多臓器不全などから早晩死に至 る。その重症化する病態は未だに解明されていない。また数多くの炎症に関与する因子が そのバイオ・マーカーとして提唱されてきたが、その病態を反映できるものは IL-6 など の急性期炎症蛋白である。上述したように、私達は個々の感染症において MCP が病態を反 映しうることを明らかにしてきたが、今回は重症細菌感染症で、様々な原因を有する敗血 症を対象として、その意義を検討する。また洪水の際のレプトスピローシスやメリオイ ドーシスは中規模災害後にも多発する疾患であり、不適切な治療または治療が遅れた場合敗血症となり予後不良となる。ここではフィリピンのサンラザロ病院との共同研究と してこれらの重症症例をともに解析しながら東北大学病院で収集された重症敗血症患者検体を用いてMCPを測定し、その研究を通してその炎症病態の解明に努める。
千田 浩一(災害医学研究部門・災害放射線医学分野)
稲葉 洋平
李 昌一(神奈川歯科大学大学院)、樫村 康弘(東北大学医学系研究科)
本研究では、研究対象を日本国内全体の医療機関に拡大する。各医療機関、自治体、医師会等と連携し、日本全国での受援計画策定状況調査及び受援計画策定の支援活動を行う。また調査結果で得られた知見を、海外での災害時医療支援に活用できるよう各国政府、国連関係機関、NPO等と情報を共有し、国内外被災地医療機関の受援力向上に貢献する。
細井 義夫(災害医学研究部門・災害放射線医学分野)
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上原 芳彦、村田 泰彦(東北大学大学院医学系研究科)
福島第一原子力発電所事故により土壌が汚染された地域に居住する住民は、今後長期間にわたり低線量・低線量率放射線に被ばくする。旧ソ連のウラル核惨事とテチャ川の核汚染により低線量率長期被ばくした住民では、発癌だけでなく心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが増加することが近年報告されている。低線量率放射線による心筋梗塞や脳梗塞は発癌と比較して致死リスクが小さくないにもかかわらず、その発症機序等に関してはあまり研究が行なわれていない。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs: Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)は腰痛や感冒などに広く用いられている薬剤で、処方薬としてだけではなく、ボルタレンなどの商品名で市販もされている。NSAIDsは既往症として心筋梗塞を持つ患者で心筋梗塞再発のリスクを高めることが報告されている。申請者らはこれまでに、培養ヒト血管内皮細胞が被曝線量依存性に細胞接着因子の一つであるICAM-1を過剰発現することを明らかにした(投稿準備中)。ICAM-1の発現増加は血栓の形成を促進し、心筋梗塞や脳梗塞の原因となりえる。さらに一部のNSAIDsが放射線によるICAM-1の発現をさらに亢進させることを明らかにした(投稿準備中)。これらの研究成果を踏まえ、本研究では動脈硬化を高頻度に発生するapo Eノックアウトマウスを用いて、NSAIDsが放射線による血管障害を増加させるかどうかを検討する。本研究の結果としてNSAIDsが放射線による血管障害をin vivoで増強することが明らかになれば、福島県内の高放射線被ばく地域に居住する人に対して、NSAIDsの服用を避けることで、将来の放射線被ばくによる心筋梗塞や脳梗塞のリスクを軽減させることが可能となる。
稲葉 洋平(災害医学研究部門・災害放射線医学分野)
千田 浩一
盛武 敬(産業医科大学)、平山 暁(筑波技術大学)
放射線災害がひとたび起きれば、多数の公衆が放射線被曝影響を受ける。適切な治療方針や予後予測をするためには、放射線被曝線量の把握が重要となる。しかし災害時の公衆は、一般的に個人線量計を身に着けておらず、被曝線量が不明なためそれを推計する必要がある。現在は、生物学的線量推計である染色体異常検出法がゴールドスタンダードとされているが、培養時間や染色体異常個数のカウントに膨大な時間と労力がかかり、放射線災害などの緊急時における簡便な線量推計法(スクリーニング)としては実用的ではない。
兪 志前(災害医学研究部門・災害精神医学分野)
富田 博秋、小野 千晶、浩 日勒
喜田 聡、福島 穂高(東京農業大学)
災害による心的外傷ストレスにより、交感神経とともにコルチゾールの分泌が亢進することが知られ、更に亢進した交感神経やコルチゾールを介して免疫系に影響を与えることが知られている。これらのストレス応答は心的外傷後ストレス障害やうつ病などの病態形成に関与する可能性が示唆されているが、その実態はほとんど知られていない。また、有効な治療法及び予防法の開発が進んでいない。一方、ヒトの唾液は各種のサイトカイン等生理活性物質が含まれ、血液に比べて侵襲性が少なく、容易に採取することができるため、臨床検査の検体としての利用が期待されている。本研究では、軽度ストレスによる被検者の唾液および末梢血を対象に各種のサイトカインの変動を測定し、ストレスによる影響を検討する。更に、唾液中と血中サイトカイン濃度の相関関係についても検討する。また、ストレスへの応答に関する脳機能の変化がストレス負荷動物モデルを用いて検討し、ヒト唾液と中枢神経系のストレス応答に共通する「応答転写因子群」を特定する。本申請はストレス関連疾患の指標となり得る新規ストレスマーカーの特定とともに、これらの分子群を指標とする震災ストレス関連疾患のスクリーニング・診断法および治療法の開発に繋がることが期待される点で意義がある。
笠原 好之(災害医学研究部門・災害精神医学分野)
富田 博秋
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大規模災害によるストレスはうつ病や不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神神経疾患発症の要因の一つである。特に妊娠期におけるストレスは、母体のみならず胎児の将来の精神神経疾患の発症リスクを上昇させることが知られる。従って妊娠期に強いストレスを受けた時の生体反応について母子の精神神経疾患の観点からの研究が必要であるが、この観点に立った研究は少ないのが現状である。ストレス時には強い内分泌応答が惹起されるため、この応答が母子の精神神経疾患に重要な役割を果たすことが考えられる。申請者らはこれまでに下垂体後葉ホルモンのオキシトシン(OXT)がストレス応答とストレス応答により惹起される精神神経疾患に関与することを見出した。OXTは母子の関係においても重要な機能を有するため、妊娠期のストレスによる母子の精神神経疾患に対して果たす役割は大きいと考えられるが、詳細は全く不明である。本研究では妊娠期のストレスによる母子の精神神経疾患の発症脆弱性におけるOXT機能の機序を解明することを目的とする。
三木 康宏(災害医学研究部門・災害産婦人科学分野)
伊藤 潔
柴原 裕紀子、高木 清司(東北大学大学院医学系研究科)、齊藤 涼子(東北大学総合地域医療研修センター)
ストレスホルモンであるコルチゾールは子宮に対して影響をおよぼし、疾患へとつながると考えられる。正常な状態ではコルチゾールは組織中で分解・無害化され、この防御機構が破綻することで癌などの疾患が発生するのではと考えている。一方、癌や精神疾患などの多くにエピゲノム異常が関与することが知られている。過度や慢性的なストレスがストレスに対応する遺伝子群の発現のエピジェネティクスを攪乱し、結果、疾患が引き起こされるのではと考えられる。本研究では、災害ストレスが子宮においてストレス防御にはたらく遺伝子群のエピジェネティクスにおよぼす影響を明らかにすることを目的とする。災害ストレスの女性生殖器への影響を初めて遺伝子レベルで解明する試みであり、被災地域住民の健康確保に対して、科学的根拠をもって貢献できるものと考えている。
斎藤 昌利(災害医学研究部門・災害産婦人科学分野)
伊藤 潔
菅原 準一(東北大学東北メディカル・メガバンク機構)
東日本大震災においては医療アクセスが途絶した結果、避難所や自宅といった病院外での分娩が平時の約3倍に増加し、妊産婦は極めて危険な状況下に置かれた。WHOを中心とした国際基準では、激甚災害時には、妊産婦をハイリスク災害弱者として特に支援すべきとしている。一方我が国においては、災害時に妊産婦をフォーカスした支援体制が確立されていない。明日への希望をもって、安心して分娩し子を育む安定したシステムを開発することは、従来より医療過疎が問題となっていた被災地域の復興・再生においても欠かせない視点である。そこで本研究では、世代を紡ぐ妊娠分娩を守るために、分娩に携わる可能性のある幅広い職種に対し、国際標準化された分娩取扱い教育プログラムを展開し、その教育効果を検証する。これらによって、被災地再生の礎となる妊娠分娩を庇護し、明るく希望に満ちた地域社会の復興を具現化する。
中山 雅晴(災害医学研究部門・災害医療情報学分野)
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石井 正(東北大学総合地域医療教育支援部)
大災害下において長期化する避難所生活は、避難民の健康を損ない病状を増悪させるばかりでなく、適切な衛生環境を維持できないことで地域一帯にパンデミックを及ぼす恐れがある。 東日本大震災においてもっとも被害の甚大であった地域の一つである石巻医療圏では、徹底した避難所アセスメントとそれによる対策を通じて、懸念されたパンデミックを発症させる ことなく鎮静化し、アセスメントの重要性が再認識されることとなった。しかしながら、石巻医療圏での避難所数は 300 箇所、対象者は 5 万人にものぼったため、集計の困難さや入力 のばらつきなどの欠点があったことが問題として指摘された。そこで、宮城県ではそれを補うべく ipad 等モバイルでの入力や PC における管理を主眼としたモバイルアセスメントシステムの開発を開始し、申請者もその技術指導を行って構築に尽力した。今後、そのシステムが本邦における『標準』となるにあたって、県レベルを対象にして構築されている現状では、 南海トラフや首都直下型地震など大規模な災害状況に対してその規模や機能において不十分なことは否めない。具体的には、認証機能、セキュリティ、サーバーレスポンスなどの課題を解決する必要が生じる。本研究では、専門的見地からその対策としてのアイデアを発出し、 技術的諸問題を解決することを主眼とする。
小坂 健(災害医学研究部門・災害口腔科学分野)
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長 純一(石巻市包括ケアセンター)、池田 昌弘(NPO法人CLC)、植田 信策(石巻日赤病院)、草刈 拓(仙台介護支援専門員協会)
これからの大規模自然災害においては、災害派遣医療チームDMAT、災害派遣精神医療チームDPAT、災害派遣公衆衛生チームDHEAT等、外部からの支援の議論が進んでいるが、新型インフルエンザ対策や30都府県を巻き込む南海トラフ地震においては、迅速な外からの支援が困難な場合も想定される。地域の資源を生かした地域での自助、互助、共助の体制の構築が必要である。厚労省は「地域包括ケアシステム」という新しい医療介護の姿を示しており、自分で歩いて行ける範囲で、住まい、病気の通院、介護、看取りにいたるまで、地域内で完結するシステムを目指している。今後の災害対応を考えた時、この地域包括ケアシステムを単位として、訪問診療や介護サービス提供者のハードやソフトを活用して、災害時に地域で必要な事、出来ることを実践して行くことの課題と対応策を検討するものである。DMATの組織化や大規模拠点施設等が検討されているが、それはあくまで後方支援であり、自分のコミュニティで可能な限り、災害対応をしていこうとするパラダイム変換を目指すものである。これにより地域ごとに要援護者をどこに避難させ、どの程度の医療や介護が行うのかといったことを明らかにできる。これまでの行政単位の防災対策に大きく影響を与えると共に、今後、全国の市町村で導入が進められるこのシステムに災害対応の要素が加えることができれば、我が国の災害対応に大きな影響を及ぼすと考えられる。
鈴木 敏彦(災害医学研究部門・災害口腔科学分野)
小坂 健
相田 潤、千葉 美麗、清水 良央(東北大学大学院歯学研究科)、高橋 温(病院)、篠田 壽(東北大学名誉教授)、福本 学(加齢医学研究所)
福島第一原子力発電所事故による放射線被ばく線量の評価は、空間線量率等から推定されているものの、個体レベルでの被ばく量の包括的評価は十分に行われてこなかった。本研究は、歯や骨などの硬組織が有する、放射性ストロンチウムやセシウムを蓄積する性質や、歯質に発生したラジカルを保持する性質に着目し、内部被ばく・外部被ばくを包括的に評価しようとするものである。調査対象は福島県および宮城県に在住するか、発災直後に居住していた幼小児とし、福島県歯科医師会および奥羽大学との連携ならびに地域の歯科医院の協力のもと、永久歯列への交換過程で脱落する乳歯を十分なインフォームドコンセントのもとで収集する。この乳歯に蓄積した放射性物質やラジカルを各種の物理化学的手法によって測定・評価することにより、資料提供者の内部・外部被曝量を個体レベルで明らかにするとともに地域ごとの線量評価を行い、福島第一原子力発電所事故による放射線の影響の客観的・科学的データを提供しようとするものである。
柴山 明寛(情報管理・社会連携部門・災害アーカイブ研究分野)
ボレー・セバスチャン、佐藤 翔輔、今村 文彦
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東日本大震災から4年が経過し、宮城県、青森県においては数多くのアーカイブ団体により、震災アーカイブの構築は徐々に整備されてきている。また、宮城県では、宮城県アーカイブズ連絡会議を設立し、宮城県内のアーカイブ団体の横の繋がりを構築し、震災アーカイブの基盤が整備なされつつある。しかしながら、岩手県・福島県においては、復旧・復興の状況の関係もあり、震災アーカイブを構築する基盤ができていない状況である。そこで、本研究課題では、震災アーカイブの未整備である岩手県・福島県の市町村の震災アーカイブの構築支援を行うと伴に、岩手県・福島県のそれぞれにアーカイブズ連絡会議(仮)の基盤を構築する。また、みちのく震録伝で構築支援を行った多賀城市「たがじょう見聞憶」のアーカイブ構築の知見を基に、岩手県・福島県の自治体に適用し、自治体における震災アーカイブの基盤技術の創出を行う。
BORET SEBASTIEN(東北大学災害科学国際研究所・災害アーカイブ研究分野)
柴山 明寛、今村 文彦
uzailin Affan 、Khairul Munadi、Saiful Mahdi(Syiah Kuala University)、David Slater(Sophia University)、Isao Hayashi(National Museum of Ethnology)
Since 2014, Michinoku Shinrokuden has been collaborating with Syah Kuala University and and the Tsunami Museum on memorial and archive projects in Aceh, Indonesia. We have been collecting a great quantity of qualitative data about the memorialization (記憶と追悼), disaster prevention and risk reduction about the 2004 Sumatra Tsunami. In addition, we have carried out archival activities (アーカイブの活動) in the form of the DATA project: Digital Archives of Tsunamis in Aceh. Through these archival and memorial activities, we aim at comparing the memory of tsunamis in Aceh and Tohoku giving great access to disaster data and collaboration between the two regions. Finally our ambition is to show that remembering disasters is an essential step towards the recovery and the reconstruction of communities who suffered a disaster and draw recommendations or lessons for policy makers for disaster prevention and management (UN, governments, local officials and NGOs).
佐藤 翔輔(情報管理・社会連携部門・災害アーカイブ研究分野)
今村 文彦、柴山 明寛、ボレー・セバスチャン、マリ・エリザベス
平川 新(宮城学院女子大学)、阿部 恒之(東北大学大学院文学研究科)
申請者はこれまで、特定プロジェクト研究において、東日本大震災を始め、様々な災害に関する記憶・記録に関する拠点間(ミュージアム、資料館、アーカイブ等)の連携等によって、災害アーカイブの収集・保管・活用に関する調査および整理を行い、同領域の「学問化」を進めてきた。一方で、東日本大震災の被災地(現場)では、災害を伝えていく事業が盛んに行われており、方法論の体系や効用に関する科学的な解明とそれにもとづく実践が高いニーズをもっていることも事実である。本申請では、被災地におけるアーカイブ担当者、語り部、被災地ガイド等の実務者との対話や実践による参加型アクションリサーチを通して、真に効用や価値のある実践的な災害アーカイブ学の構築について探索することを目的とする。参加型アクションリサーチとは、研究者のみならず、現場への参加を通して実装試行を繰り返し、理論構築と社会還元を行う研究技法である。
桜井 愛子(情報管理・社会連携部門・災害復興実践学分野)
佐藤 健、藤岡 達也
小田 隆史(宮城教育大学)、村山 良之(山形大学)、北浦 早苗(東北大学)、村岡 太(石巻市教育委員会)、身崎 裕司(宮城県教育庁)
昨年11月の知のフォーラム国際ワークショップ分科会 1(災害教育、災害デジタル・ア ーカイブ)の議論では、個々の学校での防災教育の取組みだけでなく、教育セクター全体の災害対応能力を上げていくことの重要性が確認されている。また、3月の国連防災世界 会議のパブリックフォーラムで採択される防災教育に関する「仙台宣言」においても、地域に根ざした防災教育モデルの開発の必要が盛り込まれている。これらを踏まえて、本研究では、震災以降3年間の実践を通じて蓄積された学校データや情報を踏まえて、石巻市内小中学校を対象に、大災害後の学校防災体制の強化を面的に支援していく。 具体的には、「包括的学校安全」の枠組みに基づく学校防災診断項目の設定、子ども中心の体験学習型教育プログラムである「防災・復興マッププログラム」の類型化を図り、これら成果をガイドブックとしてとりまとめ、市内各校への配布を通じて石巻市の学校防災体制の強化に向けたモデル構築を目指す。石巻市学校安全推進会議、石巻市教育委員会と 連携協力し本研究を推進することにより、防災教育分野における「実践的防災学」の確立に貢献していく。さらに、英語版ガイドブックも作成し、他の研究資金と連携することに より、同プログラムのフィリピン、インドネシア等の大災害被災地における学校防災体制構築支援としての展開可能性も探る。
平野 勝也(情報管理・社会連携部門・災害復興実践学分野)
小林 徹平
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そもそも L1 防潮堤の計画論としての不十分さが、明らかになりつつある。具体的には、L1 については多重防御の考え方を採用せず防潮堤のみで防御を図ろうとする点、景観・環境・利便性に及ぼす様々な外部性を単純な一行のエクスキューズで済ませる計画論となっている点などである。本研究はそうした諸課題に対し、より実践的、実務的な観点から、貢献しようとするものである。具体的には、東日本大震災からの復興事業において実際に発生した外部性やコンフリクトとその解決方法の整理、さらには、それを踏まえた現実的な費用便益分析のあり方、L1 想定の精緻化のあり方を提言していく予定である。
小林 徹平(情報管理・社会連携部門災害復興実践学分野)
平野 勝也
土岐 文乃(東北大学)
東日本大震災で壊滅的な被害を受けた被災地では、住宅地の移転にともない、いかにして地域の記憶を継承するかが大きな課題となっている。本研究では、そうした地域において、「まちの記憶の継承」ー街区構成や街並要素を新たな住宅団地へ導入する方法ーと、「くらしの記憶の継承」ー地域独自の暮らし方や地域資源を新たな住宅団地に活かす方法ーの2つの側面 から研究を行う。いくつかの被災地の比較研究から得られる知見と実践活動から得られる知 見をまとめ、今後起こりうる災害の復興において、地域の記憶を継承する方法の一端を示すことを目的とする。
Anawat Suppasri(災害リスク研究部門・災害ポテンシャル研究分野)
今村 文彦、サッパシー・アナワット、安倍 祥、保田 真理
福谷 陽(東京海上日動リスクコンサルティング)、Shigeko Tabuchi(Willis Re-Analytics)、Ingrid Charvet、Joshua Macabuag(ロンドン大学)、Natt Leelawat(東京工業大学)
本研究は東北地方太平洋沖地震津波における石巻市や気仙沼市等を始めとする各自治体の被災データに基づいて、最先端の統計学技術を利用する事によって、より高い精度の津波被害関数を構築する。被災データは建物毎にある津波浸水深、建物の構造、階数など又は漁船の構造、トン数等を使用する。更には、津波数値解析による津波流速、漂流物の影響、被災メカニズム等を考察する。被害関数を解析するには、今までの統計方法「Linear regression」より高い精度の統計方法「Ordinal regression」を適用する。得られた結果は一般の方が使いやすくする為にスマートフォンやタブレットのアプリケ―ションを作成する。
安倍 祥(地震津波リスク評価(東京海上日動)寄附研究部門)
今村 文彦、サッパシー・アナワット、保田 真理
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本研究プロジェクトでは、沿岸地域の地域特性や、多様な避難課題も踏まえながら、津波から避難できる地域づくりのために地域が目標を持って取り組める避難訓練や津波避難方法検 討のプログラムを構築・提案しながら、各地でその実践と検証に取り組む。地域特性を理解 するために、想定される津波ハザードの規模や到達時間、地形と居住地等の位置関係などの 情報を踏まえた避難場所や避難方法の選択方法を整理・提案するとともに、地域に内在する 多様な避難課題(例えば、再建された津波被災地域での避難方法の再構築、災害時避難行動要支援者への平時ならびに災害時の対策や、来訪者・観光客などへの対策、地域実情に応じた自動車避難のあり方、夜間など時間帯によって異なる課題と対策、多世代にわたる避難訓 練等の防災活動へ参加など)へ対処するための取り組みプログラムを地域で実践・検証する。
林 晃大(寄付研究部門・地震津波リスク研究分野)
今村 文彦
佐藤 一郎、福谷 陽(東京海上日動リスクコンサルティング)
本研究では、平成24年度から平成26年度で実施した、東北地方太平洋沖地震の知見を反映させた確率論的津波ハザード(沿岸波高、流速、波力を指す)を基に、東北地方太平洋沖地震における浸水被害だけでなく、津波漂流物(自動車、船舶等)の漂流や特定敷地内への侵入による被害を考慮した評価を実施することで、特定の地域を対象とした浸水・津波漂流物被害を考慮した確率論的津波リスク評価を可能とすることを目指す.
Yi Carine Joungyeon(地域・都市再生研究部門・国際防災戦略研究分野)
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気候変動によって巨大化する災害が地域社会へ及ぼす影響を多様な先端技術を適用してリスク分析することで、災害リスクマネジメントの一つの側面から探っていく。世界各地で起こる巨大災害の影響は、社会深部にまで及び、社会システムを揺らがす可能性が高い。多様な先端技術を活用した研究解析の蓄積から、 気候変動の結果の一つとされている巨大災害に対する地域レジリエンス向上のための提案を行う。
木戸 元之(災害理学研究部門・海底地殻変動研究分野)
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日野 亮太・岡田 知己・東 龍介・鈴木 秀市(東北大学理学研究科)・伊藤 喜宏(京都大学)・望月 公廣・小原 一成(東京大学)・飯沼 卓史(JAMSTEC)・Laura Wallace(テキサス大・米国)・Stuart Henrys・Stephen Banister・Bill Fry(GNS・ニュージーランド)・Rebecca Bell(ロンドン帝大・英国)
スロースリップイベントが高頻度で発生しているニュージーランドのヒクランギ沈み込み帯において、国際的な共同枠組みで地震学・測地学的な総合観測を行い、イベント時の断層すべり位置・量と、通常時の固着度合いを推定し、沈み込み帯の性質を明らかにする。
山下 啓(寄附研究部門・地震津波リスク評価(東京海上日動)寄附研究部門)
今村 文彦・サッパシー・アナワット
菅原 大助(ふじのくに地球環境史ミュージアム)
市街地等の建物群内における津波の挙動を高効率・高精度に解析するために、Porous body model に基づく平面2次元数値モデルを開発する。まず、支配方程式の導出を行ない、建物群のモデル化を行なう。次に、本理論を既往の数値モデル(TUNAMI-N2)に実装する。そして、非破壊の建物群を対象として、従来手法による計算結果や既往の水理実験結果と比較し、本数値モデルの検証を行なう。
川田 佳史(災害理学研究部門・海底地殻変動研究分野)
木戸 元之
山野 誠・木下 正高(東京大学地震研究所)
海底地殻変動観測で得られたデータを解釈するためには、地殻内部の温度構造に対する理解が必要となる。最近、日本海溝や南海トラフの海側で高い熱流量異常が観測されており、この原因として地殻内の熱水循環が考えられている。熱水循環は、沈み込み帯の内部の温度構造を変え、沈み込み帯に大量の水を持ち込む。本研究ではこのような水循環プロセスの役割を明らかにすることを目指す。