- 研究テーマ
- 災害後、被災された方の健康影響は心身ともに少なからず生じます。その影響を軽減する方策を考え、実践するのが災害公衆衛生学の役割です。現在展開中の災害後の保健活動が「住民の健康に貢献しているのか?」の疑問を常に持ち、評価・検証を行っていきます。
- 研究キーワード
-
災害公衆衛生
/ 疫学
/ 自殺
/ メンタルヘルス
/ 保健事業評価
- 関連サイト
-
- 研究概要
-
これまで大学での研究活動だけではなく、行政機関の職員の立場で、東日本大震災後、仮設住宅等に入居している被災者へのメンタル面の支援や、支援者支援といった活動を10年以上一貫して行っておりました。その一環で、被災自治体のメンタルヘルスのモニタリングとして、津波被害を受けた宮城県沿岸部の市区町の自殺死亡率の推移について研究をしていました。これは、こころのケア活動を今後どのように展開していくかを判断するための資料としていました。実際、被災から5年以上経過した時期にでも自殺死亡率が上昇(仮設住宅の無償供与の関連が示唆)し、これを受けてこころのケア活動の継続、延長された経緯がありました。
2020年の新型コロナウイルス感染拡大下では、全国的に自殺死亡率の上昇が報告されていました。東日本大震災の被災地でも、仮設住宅供与終了から続く自殺死亡率の高止まりから、さらなる上昇の懸念がありましたが、実際には低下していました(Orui M. Crisis. 2023)。この背景には「こころのケア活動の継続」があると考えています。被災地域ではコロナ禍でも継続して、電話などで継続して支援を行っており、必要に応じて政府からの特別定額給付金の手続きなどを説明していました。このようなアウトリーチによる生活面や心理的のサポートを個別に提供し続けることが、今後の災害後の自殺対策のヒントになると思っています。
最後に、災害時にどのような方策が自殺予防として重要なのか、災害発生後の自殺対策に関する研究の文献レビューを行った結果、多機関連携での「脆弱性の高い集団」へのアウトリーチによる支援などがありました。特に、生活困窮や相談機関につながりにくい「脆弱性の高い集団」への支援の継続が特に重要であることが示唆されました。今後、災害が発生することは免れないです。しかし、先に上げたヒントをもとに、「災害後でも自殺死亡率を上昇させない」ために、「どのように脆弱性の高い集団」に個別的な支援を提供し続けることができるのか、疫学的手法を用いてエビデンスを示しつつ、災害公衆衛生の現場で実践していければと思います。
- 主な業績
-
- Orui M. et al. (2015). Delayed increase in male suicide rates in tsunami disaster-stricken areas following the great east Japan earthquake: a three-year follow-up study in Miyagi Prefecture. Tohoku J Exp Med. 235, 215-222. doi: 10.1620/tjem.235.215.
- Orui M. et al. (2017). Practical Report on Long-term Disaster Mental Health Services Following the Great East Japan Earthquake: Psychological and Social Background of Evacuees in Sendai City in the Mid- to Long-term Post-disaster Period. Disaster Med Public Health Prep. 11, 439-450. doi: 10.1017/dmp.2016.157.
- Orui M. et al. (2018). Mental Health Recovery of Evacuees and Residents from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident after Seven Years-Contribution of Social Network and a Desirable Lifestyle. Int J Environ Res Public Health. 15, 2381. doi: 10.3390/ijerph15112381.
- Orui M. et al. (2021). Saeki S, Harada S, Hayashi M. Practical Report of Disaster-Related Mental Health Interventions Following the Great East Japan Earthquake during the COVID-19 Pandemic: Potential for Suicide Prevention. Int J Environ Res Public Health. 18, 10424. doi: 10.3390/ijerph181910424.
- Orui M. (2023). Disaster and Suicide Prevention Activities: A Literature Review Focused on Suicide-Related Outcomes. Journal of Suicidology. 2023, 18(2): 518-528. doi:10.30126/JoS.202306_18(2).0004.
- 主な所属学会
-
-
日本公衆衛生学会
-
日本疫学会
-
日本社会精神医学会
-
日本精神神経学会
-
日本自殺予防学会
- 主な受賞
-
-
第33回日本社会精神医学会 優秀発表賞(2014)
-
日本公衆衛生学会 奨励賞(2019)
-
日本公衆衛生雑誌 ベストレビュワー賞(2020)
- その他
山形県尾花沢市 出身
1995年 山形県立新庄北高等学校 卒業
2001年 山形大学医学部医学科 卒業
2004年 山形県(健康福祉部・県立鶴岡病院精神科・村山保健所)
2013年 仙台市(健康福祉局 精神保健福祉総合センター)
2016年 福島県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座 講師
2019年 仙台市(健康福祉局 精神保健福祉総合センター)
2023年 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 予防医学・疫学部門 講師