【研究者情報】
東北大学災害科学国際研究所 国際防災戦略研究分野
教授 村尾修
【詳細】
【発表のポイント】
- 2008年のサイクロン・ナルギスの被災者が多く住むスラム「555」を対象に調査しました。軍政下の1989年に行われた強制移住政策が、結果として新たなスラム形成を誘発する「再インフォーマル化」のサイクルを生み出していることを解明しました。
- 電力や水は非公式市場で確保可能ですが、衛生やゴミ処理は公的インフラなしには解決できず、住民による自律的なインフラ供給に限界がある構造を明らかにしました 。
- セクションリーダーを中心とした「土着の統治」が、行政サービスが及ばない極限状態での生存を支える「代替インフラ」として機能していることを実証しました。
- スラムの一掃や強制移住ではなく、住民が構築した社会的な仕組みを認め、公的計画と接続する「現地改善」への政策転換を提言しました 。
【概要】
ミャンマー最大の経済都市ヤンゴンでは、急速な都市化や2008年のサイクロン・ナルギスによる被災に伴い、周辺部でのインフォーマル居住地(スラム)の拡大が続いています。東北大学災害科学国際研究所の村尾修教授らの研究グループは、ヤンゴン周辺部のスラム「555」を対象に、10年以上にわたる衛星画像解析と現地調査(リーダーインタビュー、36世帯のアンケート)を実施し、その形成過程と生活の実態を分析しました。分析の結果、スラム「555」は1989年の政府による強制移住政策の「歴史的な負の遺産」として、脆弱性が周辺部へ再配置される形で誕生したことが明らかになりました 。一方で、住民は行政に頼らず、セクションリーダーを中心とした独自の統治組織を構築し、火災監視塔や簡易ボートの配備、さらには非公式な電力・水供給網を管理することで、厳しい環境下でのレジリエンス(強靭性)を維持していることが分かりました。本研究は、現在も不透明な情勢が続くミャンマーにおいて、住民による草の根の組織がいかに「生存のためのインフラ」として機能しているかを浮き彫りにしたものであり、今後のインクルーシブな都市計画に対する重要な指針となります 。本研究成果は2026年3月16日に学術誌Habitat Internationalに掲載されました。
図. 住民による自律的な防災・減災の取り組み:行政支援が欠如する中、住民は簡易ボートの配備(a)や監視塔の建設(b)、延焼防止用の道具(c)を独自に整備している 。こうした「土着の統治」に基づく自律的な仕組みが、極限状態での生存を支える実質的なインフラとして機能する実態を示している。
【論文情報】